かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前になった近年においても、カメラ好き、写真好きの人々から「オールドレンズ」と呼ばれ親しまれています。オールドレンズは「マウントアダプター」と呼ばれるパーツを用いることで現行のカメラに装着することができます。これまでに発売された膨大な数の交換レンズの中から、自分好みのレンズを見つけるのも、オールドレンズ遊びの楽しみの一つなのです。
「オールドレンズ・ライフ 2019-2020」では、オールドレンズの中でもあまり注目されてこなかった「オールドズームレンズ」を特集。一筋縄ではいかない性能や個性的な外観には、現代のレンズとは一味も二味も違う面白さがあります。
本記事ではその中の一つ、Zoomar 36-82mmF2.8の作例と解説を掲載します。
世界初のズームは希代のクセ玉
ズーマーは世界初のスチル用ズームレンズだ。1959年、ベッサマチックの発売に合わせ、フォクトレンダーが投入したレンズである。ひと目見て圧倒されるのは、その独自のズーム機構だ。ズームリングを3本の金属棒で前後させるという方式は、ズーマー独自のめずらしい構造である。スチル初のズームレンズだけあって、ズーム機能を強烈にアピールしたデザインだ。
本レンズはF2.8通しの光学2倍標準ズームだ。こう記すとまるで現行レンズのようなスペックである。無論、元祖オールドズームなので、画質に過度の期待は禁物だ。シャープネスは甘く、周辺光量落ちが顕著で、何より歪曲収差が強烈だ。ワイド端で樽型歪曲収差が、テレ端で糸巻き型歪曲収差が発生し、絞ってもほぼ変化はない。建物を写し込んだ際のデフォルメ感は、ある意味において特筆に値するだろう。
外観と言い描写と言い、キワモノ色が強い本レンズだが、ズームレンズゆえに敬遠する人が多いのも事実だ。しかし、単焦点一本槍のオールドレンズファンにこそ、このズームレンズは試してもらいたい。大味な描写が功を奏し、かっこいい写真が量産できるのだ。単焦点派も食わず嫌いせず、元祖ズームレンズのズーマーを一度は試してほしい。
大味なレンズだが、F5.6まで絞るとシャープな描き方になる。ただし、周辺部は結像が甘く、焦点距離を問わず色収差もかなり目立つ。