オールドレンズ・ライフ
第21回

スチル向け初のオールド・ズームレンズ Zoomar 36-82mmF2.8は、外観も写りも強烈。

かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前になった近年においても、カメラ好き、写真好きの人々から「オールドレンズ」と呼ばれ親しまれています。オールドレンズは「マウントアダプター」と呼ばれるパーツを用いることで現行のカメラに装着することができます。これまでに発売された膨大な数の交換レンズの中から、自分好みのレンズを見つけるのも、オールドレンズ遊びの楽しみの一つなのです。

オールドレンズ・ライフ 2019-2020」では、オールドレンズの中でもあまり注目されてこなかった「オールドズームレンズ」を特集。一筋縄ではいかない性能や個性的な外観には、現代のレンズとは一味も二味も違う面白さがあります。

本記事ではその中の一つ、Zoomar 36-82mmF2.8の作例と解説を掲載します。

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オールドレンズ・ライフ 2019-2020

世界初のズームは希代のクセ玉

太い金属の棒がズームリングにつながっている。見た目のインパクトは強烈だ。

ズーマーは世界初のスチル用ズームレンズだ。1959年、ベッサマチックの発売に合わせ、フォクトレンダーが投入したレンズである。ひと目見て圧倒されるのは、その独自のズーム機構だ。ズームリングを3本の金属棒で前後させるという方式は、ズーマー独自のめずらしい構造である。スチル初のズームレンズだけあって、ズーム機能を強烈にアピールしたデザインだ。

本レンズはF2.8通しの光学2倍標準ズームだ。こう記すとまるで現行レンズのようなスペックである。無論、元祖オールドズームなので、画質に過度の期待は禁物だ。シャープネスは甘く、周辺光量落ちが顕著で、何より歪曲収差が強烈だ。ワイド端で樽型歪曲収差が、テレ端で糸巻き型歪曲収差が発生し、絞ってもほぼ変化はない。建物を写し込んだ際のデフォルメ感は、ある意味において特筆に値するだろう。

外観と言い描写と言い、キワモノ色が強い本レンズだが、ズームレンズゆえに敬遠する人が多いのも事実だ。しかし、単焦点一本槍のオールドレンズファンにこそ、このズームレンズは試してもらいたい。大味な描写が功を奏し、かっこいい写真が量産できるのだ。単焦点派も食わず嫌いせず、元祖ズームレンズのズーマーを一度は試してほしい。

鏡胴にズーム目盛りが刻まれている。36ミリから82ミリの標準2倍ズームだ。
ズーム全域で開放F2.8を実現する。世界初のズームにしてこのスペックはお見事。
最短撮影距離は1.3メートルで、ワイド側ではもう少し寄りたくなる。
デッケルマウントを採用しており、絞りはマウントアダプター側で制御する。
レザー製のフロントキャップが付属。「Voigtländer」のロゴが刻まれている。
α7III + Zoomar 36-82mmF2.8 絞り優先AE F2.8 1/1600秒 ISO100 AWB RAW 82mm 開放からコントラストと色ノリが良い。周辺光量落ちもプラスに働き、印象深い写真が撮れる。

大味なレンズだが、F5.6まで絞るとシャープな描き方になる。ただし、周辺部は結像が甘く、焦点距離を問わず色収差もかなり目立つ。

Wide: 36mm
Tele: 82mm
α7III + Zoomar 36-82mmF2.8 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO100 AWB RAW 82mm テレ端では糸巻き型歪曲収差が顕著だ。数あるオールドズームの中でも強烈な歪みっぷりだ。
Zoomar 36-82mmF2.8 中古価格:50,000~100,000円 Dekel mount 1959年にベッサマチック向けに登場したレンズ。レンズ構成は11群14枚だ。この個体はデッケルマウントだが、M42やエキザクタもある。
DKL-SαE 税別価格:33,000円 デッケルのレンズをソニーEマウントボディに装着。ていねいに内面反射防止を施している。

オールドレンズ・ライフ 2019-2020

著者プロフィール

澤村 徹


(さわむら・てつ)
フリーライター・写真家

マウントアダプターを用いたオールドレンズ撮影、デジタルカメラのドレスアップ、デジタル赤外線写真など、ひと癖あるカメラホビーを提案している。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線撮影による作品を発表。玄光社「オールドレンズ・ライフ」の他、雑誌、書籍など数多く執筆。

書籍(玄光社):
オールドレンズ・ベストセレクション
オールドレンズ・ライフ 2017-2018
マウントアダプター解体新書
作品づくりが上達するRAW現像読本

ウェブサイト:Tetsu Sawamura official site
Twitter:@tetsu_sawamura

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