オールドレンズ・ライフ
第18回

レンズの歴史を紐解き、特有の描写に思いを馳せる Primoplan 58mm F1.9 V

かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、スマートフォンで写真を撮るのが当たり前になった近年においても、カメラ好き、写真好きの人々から「オールドレンズ」と呼ばれ親しまれています。オールドレンズは「マウントアダプター」と呼ばれるパーツを用いることで現行のカメラに装着することができます。これまでに発売された膨大な数の交換レンズの中から、自分好みのレンズを見つけるのも、オールドレンズ遊びの楽しみの一つです。

「オールドレンズ・ライフ 2018-2019」に掲載している特集のひとつ、「マニアが隠れて使う名レンズ」では、シンプルに写りの良い名玉ではなく、使いこなし方を把握し、条件を揃えてはじめて楽しめる特徴的な描写を持つレンズ、ある意味「隠れ家」的なレンズを紹介しています。

本記事ではその中のひとつ、「Primoplan 58mm F1.9 V」の作例と解説を紹介します。

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オールドレンズ・ライフ 2018-2019

通こそわかるアンジェニューテイスト Meyer Optik Gorlitz「Primoplan 58mm F1.9 V」

α7II + Primoplan 58mmF1.9 V 絞り優先AE F1.9 1/90秒 ISO100 AWB RAW コントラストが穏やかで、かすかに黄色味を帯びる。まるでアンジェニューのような描き方だ。

プリモプラン58mm F1.9は、戦前から続くメイヤーの定番標準レンズだ。ここで取り上げた個体はVコーティングを施した戦後モデルである。元々はどちらかと言えばマイナーなオールドレンズだった。しかしながら、2016年、クラウドファンディングを用いてメイヤー自らが復刻生産にこぎ着け、その影響もあり、昨今は人気オールドレンズの仲間入りを果たしている。

とかく注目を集めるプリモプランだが、位置付け的には少々微妙なところだ。人気レンズになってしまったため、描写性能の割りに価格が高い。加えて極端なクセもなく、オールドレンズビギナーには良さがわかりづらいのだ。

ところが、オールドレンズに精通したマニアにとって、このレンズはたまらない魅力に満ちている。黄色にかぶる色調はアンジェニューを思わせ、透明感のある描写はフォクトレンダーのゼプトン50mm F2に似ている。本家を使ったことのある人ならば、プリモプランの描写は思わずニンマリとさせられるにちがいない。

もうひとつ、4群5枚の発展型エルノスターというレンズ構成もマニア向けだ。エルノスターはトリプレットを大口径化した構成だが、すぐさまゾナーにその座を奪われた。佳人薄命な構成がマニア心をくすぐる。

α7II + Primoplan 58mm F1.9 V 絞り優先AE F2.8 1/125秒 ISO100 AWB RAW 開放近辺はかなり甘い描写のレンズだ。F2.8まで絞っても硬くならず、結像したエリアは繊細なタッチだ。周辺部はわずかにぐるぐるボケが見て取れる。
Primoplan 58mm F1.9 V 中古価格:45,000~55,000円 Exakta mount 戦前から1950年代にかけて製造された標準レンズ。4群5枚の発展型エルノスターと言われている。絞り羽根は14枚と贅沢な作りだ。
KF-EXAE 税別価格:4,000円 エキザクタマウントのレンズを、ソニーEマウントボディに装着するマウントアダプター。マウント面のロックレバーでレンズを着脱する。

オールドレンズ・ライフ 2018-2019

著者プロフィール

澤村 徹


(さわむら・てつ)
フリーライター・写真家

マウントアダプターを用いたオールドレンズ撮影、デジタルカメラのドレスアップ、デジタル赤外線写真など、ひと癖あるカメラホビーを提案している。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線撮影による作品を発表。玄光社「オールドレンズ・ライフ」の他、雑誌、書籍など数多く執筆。

書籍(玄光社):
オールドレンズ・ベストセレクション
オールドレンズ・ライフ 2017-2018
マウントアダプター解体新書
作品づくりが上達するRAW現像読本

ウェブサイト:Tetsu Sawamura official site
Twitter:@tetsu_sawamura

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