宙に浮かぶ不思議な球体写真 〜德田竜司インタビュー〜

空間の中央に浮かぶ球体。その中には風景が映り込んでいる…ように見えるが、映り込んだ「風景」自体が実は写真なのだという。一見、現実なのか、非現実なのかわからない不思議な写真を撮影したのは、德田竜司さん。この写真作品シリーズ「mirrorball」について話を聞いた。

 


フォトグラファー 德田竜司(とくだ・りゅうじ)
1986年仙台市生まれ。横浜国立大学工学部卒業後、東京ビジュアルアーツ写真学科を経て、アキューブ入社。2015年市川森一と共に初台にスタジオHANAREを構え、独立。
https://www.ryujitokuda.com/

 

─どうやって作っているのですか?

德田 簡単に言うと、上下左右前後を風景写真で囲った立方体の空間を作り、ミラーボールを差し入れて、真正面から撮影してます。光を透過するペーパーに写真をプリントし、ライティングで各場所の光を再現して、一見リアルな風景だと錯覚する擬似空間を作りました。

室内の柔らかい光ならバウンスで回したり、屋外なら強い光をメインにしたりと、状況によって光を作ります。スナップ写真をさらにブツ撮りしているような感覚。パッとみて空間だとわかるよう、ピントは球体に合わせ、背景を若干ボカし奥行きが生まれるような撮り方をしています。

アクリス版でつくった立方体の内側にプリントを貼り付け、背面から中央部分に球体を突き出し、宙に浮いたような状態にして、手前側から撮影している。
撮影セット 6方向からモノブロックストロボでライティングする。

 

 

6面の写真を展開したところ。一番左が手前(カメラ側)となる。奥側(中央)の写真には、球体を固定するアクリル棒を突き出す穴が開いている。

─側面に貼った写真は?

德田 都度、撮影場所に合わせていろんな角度から撮影してます。室内であれば、自分を中心軸に上下左右前後にカメラを向けて撮る。屋外の広い空間なら、その場所らしいポイントや、気になった箇所をひたすら撮る。最終的に上下左右前後に貼る6 枚をセレクトしてます。見る側が混乱しないように、ある程度ルールを決めていますね。

 

─使用されている機材を教えてください

德田 カメラは、ニコン D850、レンズは、ニコン AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED。ストロボは、Elinchrom(エリンクローム)D-Lite RX 4や、ELC Pro HD 500 To Goなどを6灯セットして、MacBook Proからアプリケーション「EL-Skyport」で調光してワイヤレス発光させています。撮影後にPhotoshopで手前側(カメラ側)の写真を合成しています。

ニコン D850 + AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED

Elinchrom ELC Pro HD 500 To Go

EL-SKYPORTトランスミッターPlus

 

球体への映り込みを最小限にするため、撮影はPCからリモートシュートする

Elinchromのアプリケーション「EL-Skyport」の画面。6灯のストロボをコントロールする

 

 

ー作品制作で苦労した点は?

德田 セッティング自体は、ふだんの物撮りで慣れているので苦労はしませんでした。ハコを作るのに試行錯誤しました。特にプリントは、はじめは普通紙で試しましたが暗すぎたので、光が透過するペーパーを選びました。

─作り始めたきっかけは?

德田 はじめは360度カメラに興味を持ったんです。でも、単に360度カメラで撮っただけでは面白くない。そこで思いついたのがミラーボールの映り込みを撮るアイデア。そこに加えて、映り込みを撮るだけじゃなく「映り込むもの自体」を写真で撮るのはどうかと思ったんです。

まず試しに近所の公園をモチーフに実験したら、2次元の写真の中に不思議な空間が生まれていた。数パターン撮影して、ある程度見え方がつかめた時に、この作品で空間や次元を表現できるかもしれないと思ったんです。

─空間や次元ですか。

德田 元々、SFや物理が好きなんです。作品を作る時、僕の場合まずはコンセプトから組み立てていくんですね。その時に、物理学やSF、自分の好きな世界からインスピレーションを受けることも多くて。今回で言えば、物理学者の言葉がヒントになっています。その学者が言うには、物理学上宇宙全体には最大11次元まで存在している、と。僕らは3次元の世界に生きてるけど、認識できていないだけで実は別の世界が存在しているかもしれないって説。それってどういうこと? って、僕自身がワクワクしたんです。

そもそも写真って3次元の世界を2次元の紙に写し込むじゃないですか。それだけで一つ上の次元から覗き見ているような事だと思ったんです。そんな写真に囲まれた空間に浮かんで全てを写し込んでいるミラーボールって多次元そのものなんじゃないかって。作品を見た人が「この空間の中に、別の世界が広がっているかも」と今まで考えてもみなかったことを想像をしたり、シンプルに「どう撮ってるの?」と絵自体を楽しむのもいい。新しい体験にしてもらえたら嬉しいです。

<作品ギャラリー「mirrorball」>

 

 

ー作品制作のモチベーションはどんなところから生まれますか?

德田 普段の仕事では、クライアントの要望に答えて、求められる写真を撮っています。タレントのポートレートや、車や、スポーツや、料理など様々なジャンルのお仕事を頂いています。仕事はやはりとてもシビアです。そんな時に自分にとって良い刺激になるのは、やはり自分が撮りたいもの、好きなものを撮ることです。だから、休日にも写真を撮りに行きます。仕事が作品制作のモチベーションになり、作品制作が仕事のモチベーションにもなっている感じです。

 

ー今後の作品制作について教えてください

德田 この「mirrorball」シリーズのほかにも新しい作品を撮っています。その中の1つは、“妖怪”の模型を自然風景に合成して、そのプリントを掛け軸したシリーズです。いつも撮りたいって衝動から作り始めてるんですが、共通してるのはまだ誰も作ってないものを作りたいってこと。自分の内面から生まれた興味を持ったこと、単純に面白いと思ったことと技術を積み重ねて、自己表現に繋げていきたいです。

 

初台のスタジオにて

 

 

<玄光社の本>

德田竜司さんの作品は、コマーシャル・フォト2018年8月号に掲載しています。

コマーシャル・フォト 2018年8月号

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