映画のタネとシカケ
第4回

映像における線の効果でイメージをデザインする

映画の楽しみ方は人それぞれ。ストーリーや出演俳優、監督はじめ参加している制作スタッフそれぞれの仕事を目当てに鑑賞する人もいるでしょう。どのような映画であれ、制作者の持ち味は作品に滲み出てくるものです。では、その「持ち味」とはどのようにして形作られているのでしょうか?

映画のタネとシカケ」では、映画の制作において使われる技術的な工夫(タネとシカケ)に注目し、演出意図に沿った映像作りの方法論を図解によって詳しく解説しています。

収録タイトルは『ジュラシック・パーク』『ラ・ラ・ランド』『パラサイト 半地下の家族』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』など11作品。

本記事では『ジュラシック・パーク』の解説より、線の組み合わせが生み出す躍動感と、撮影時のリソース配分にまつわるスタッフのエピソードを紹介します。

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映画のタネとシカケ

映像における線の効果(E)

プロダクションデザイナー(映画の美術全般の総責任者)のリック・カーターは、パークの安全管理をするコントロールルームは垂直線をメインにして、曲線を組み合わせる安定感のあるデザインにして、この部屋が安全の要であることを表現しています。

デザインコンセプトで対照的なのが、パークを訪れる観光客の窓口になるビジターセンターの外観と内装です。曲線を主体に垂直線を組み合わせたデザインで、曲線の持つ動感とエレガントさが強調されて、見た目からも楽しませます。このビジターセンターの内装は、最初(23分4秒~)は曲線のデザインを見づらくしています。中央には2体の巨大な恐竜の化石が飾られて、左右の壁面に沿って工事作業用の高い足場が組まれて、天蓋近くには大きな横断幕が張られているためです。

曲線と斜線が映像に与える躍動感(G)

ビジターセンターの曲線のデザインが見えてくるのは、センター内に現れた T-REXとヴェロキラプトルたちの激しいクライマックスの戦い(117分3秒~)で、化石や足場などすべての邪魔な構造物が破壊されてからです。T-REXが勝利の雄叫びを上げる引き画のショットでは、背景にある曲線は T-REX の力強さを引き立てます。さらに天蓋から落ちてくる横断幕が、T-REX の身体と交差する瞬間は、王者の勝利に一層の躍動感を与えます。

横断幕が交差する瞬間に躍動感を感じるのは、斜線が持つ特性です。斜めの線がフレームの中にあると、人は躍動感や生命感を感じます。複数の角度から斜線が交わると、その効果はさらに増します。映画館で公開初日に観た私は、このショットで観客全員が歓声をあげて拍手したことをよく覚えています。

クライマックスの変更に必要な条件

元々の脚本では、クライマックスの戦いには T-REXは現れず、グラントが巨大なクレーンでヴェロキラプトルを潰す予定でした。撮影中盤にスピルバーグが、T-REXをもう一度登場させたいと提案したことから、クライマックスの変更が始まりました。一番大きな問題になる予算については、撮影を予定よりも早く終わらせたことで使わずに済んだ予算を、T-REXとラプトルのCG予算へ回すことで解決しています。撮影の速度が早いことで知られるスピルバーグは、大規模で手間のかかる撮影が多い『ジュラシック・パーク』でも、101日の撮影予定を12日も早く終わらせています。

大ヒット映画を何本も監督しているスピルバーグでも、大作映画で大きな変更をすることは容易ではありません。仕掛けの大きさからも、スピルバーグは早い段階からクライマックスの変更を考えていて、撮影の進行具合を見て予算管理をするプロデューサーに提案したのではないかと推測しています。

撮影監督ディーン・カンディの功績

撮影が早く終わったのは、撮影監督ディーン・カンディの力もあります。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの撮影で知られてるカンディは、はっきりとした色調の映像が特徴です。また低予算の映画で仕事を始めていることから、シーンが変わるときのセットアップにかかる時間を、短縮するプランを考えることを得意としています。

『ジュラシック・パーク』では1日15回もセットアップチェンジを行うことで、撮影日数を少なくすることに貢献しています。天候の変化が激しかったハワイロケでは、映像のトーンにばらつきを起こさないように、照明を使ってうまくコントロールをしています。撮影監督というと撮る映像のことだけを取り沙汰されますが、カンディのような職人肌の撮影監督も評価されるべきです。


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