醤油本 改訂版
第8回

醤油はなぜおいしい?万能調味料たる理由を知る

醤油という調味料は、私たち日本人の食卓に欠かせない存在でありながらも、あるのが当たり前だが実はあまり詳しく知らない、という方もいるのではないでしょうか。

醤油本 改訂版」は、醤油の歴史から製造過程の詳細、好まれる味の地域性や蔵元への取材などを通して、醤油への理解を深めることのできる一冊です。醤油に関する広範なデータをコンパクトにまとめており、読めば自分好みの醤油を探す一助になることでしょう。2015年に発行した同名の書籍から内容を更新し、蔵元データのアップデートを行いました。

本記事では第2章「醤油を見つける」より、醤油の味を構成する要素とおもな効用について解説します。

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醤油本 改訂版

醤油の「味」解剖

味が足りないと思ったら、ひとまず醤油をかけたくなるのが日本人の性。醤油はまさに料理を美味しくさせる魔法のアイテム。その味の全貌を明らかにする。

醤油は合わない食材を探す方が難しいほど、いろいろな食材の持ち味を引き立て、食欲の湧く味や香り、色に仕立てる万能調味料。和食はもちろん、洋食や中華と、世界各国で愛用されています。

なぜこんなにいろんな料理に使えるのでしょうか。それは味の5大要素である旨味、甘味、塩味、苦味、酸味、それら全てを兼ね備えているから。醤油を使うとその5味が一体となって料理に深い味わいを与えていきます。

さらに醤油には、食材をより美味しくする効果・効用があります。刺身をそのまま食べるのは抵抗があるけれど、醤油をつけたら美味しかったという経験があるでしょう。それは醤油が魚の生臭さを消し、彩りを添え、美味しく感じるpH(弱酸性)にし、甘味や旨味を引き立てる効果があるからです。

この魔法の秘密は醤油を作る微生物にあります。日本固有の麹菌から生まれる無数の酵素、乳酸菌、酵母菌が絶妙にバトンタッチしながら大豆と小麦に含まれる成分を3ヶ月から数年かけて分解し、味や香りの成分を生み出していきます。そしてそれらの成分が作用し合い、調和の取れた味や香りになっていくのです。

醤油が万能調味料と言われる理由

下ごしらえ、調理、仕上げ。様々な段階で醤油を少し使うだけで味がグンと良くなる。昔から伝わる様々な調理をよく見ると、科学的根拠に基づくことがわかる。

1. 醤油本来の持つ効用

消臭効果
刺身に醤油をつけるのは、味付けのためだけでなく、生臭さを消す目的もある。醤油によって、pHが弱酸性になり、魚にある揮発性のトリメチルアミンが中和。揮発性がなくなって生臭さが感じられなくなるのだ。

加熱効果
焼き鳥や蒲焼きなどのあの食欲をそそる香りは、醤油が含むアミノ酸と砂糖やみりんなどの糖分が加熱されて起こるアミノカルボニル反応によるもの。この反応により、メラノイジンという色素と香りの成分ができ、さらに照りも出る。

静菌(殺菌)効果
醤油は適度な塩分やアルコール、有機酸などが含まれているため、大腸菌などの増殖を止めたり、死滅させる効果がある。この効果を利用したものが醤油漬や佃煮。生鮮食料品も、醤油で濃く味付けすることで保存が利く。

緩衝効果
食べ物を美味しく感じるのは、弱酸性(pH4~5)とされている。醤油には、急激なpHの変化を抑えて、料理のpHを弱酸性に保つ力「緩衝能」がある。この作用により煮物や和え物、酢の物など調和のとれた味つけができるのだ。

2. 互いに作用しあって発揮する効用

対比効果
甘い煮豆の仕上げに少量の醤油を加えると甘味が一層引き立つ。このように、お汁粉やスイカに塩をひとつまみ入れるのと同じ効果で、強い主体の味に相反する味を少量加えると、主体の味をより強く感じるようになる。

抑制効果
浸かりすぎた漬物や塩鮭など、塩辛いものに醤油をたらすと、塩辛さが抑えられ、まるみのある味わいになることがある。これは醤油の中に含まれる乳酸や酢酸などの有機酸類に塩味をやわらげる力があるためだ。

相乗効果
醤油の中のグルタミン酸と、かつお節の中のイノシン酸が働き合うと、深い旨味が作り出される。このように混ぜ合わせることにより、両方の味がともに強められることを味の相乗効果と呼ぶ。そばつゆや天つゆなどがよい例だ。

参照:日本醤油協会発行「しょうゆの不思議」


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