醤油本 改訂版
第5回

東北地方の醤油の蔵元

醤油という調味料は、私たち日本人の食卓に欠かせない存在でありながらも、あるのが当たり前だが実はあまり詳しく知らない、という方もいるのではないでしょうか。

醤油本 改訂版」は、醤油の歴史から製造過程の詳細、好まれる味の地域性や蔵元への取材などを通して、醤油への理解を深めることのできる一冊です。醤油に関する広範なデータをコンパクトにまとめており、読めば自分好みの醤油を探す一助になることでしょう。2015年に発行した同名の書籍から内容を更新し、蔵元データのアップデートを行いました。

全国には多くの蔵元が存在しますが、本記事では第2章「醤油を見つける」より、東北の蔵元を抜粋して紹介します。

*販売価格は、2023年12月時点の金額で、変更になる可能性があります

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醤油本 改訂版

東北の蔵元

社員が全てに愛着を持つことが第一:石孫本店

https://ishimago.jp/(見学可・要予約)

焼いた稲藁を木炭の上に被せることで翌朝まで木炭を保温でき、麹菌を育てることができる。

石材と木材でできた蔵に、暖かな光が差し込んでは風情ある美しさを作り上げている。景色のように溶け込んでいる道具の多くは大正時代から代々使い続けられたもの。6代目石川裕子社長は、その一つひとつの道具を見ながら「石炭が赤く熱されるのは綺麗よ」「麹を混ぜる度に小麦の粉がふわって広がるのは幻想的」「藁が高く燃え上がる雰囲気に、毎回感動するの」と愛おしそうに話す。

効率が良いとは言えない製造法にこだわる理由

「これから麹造りなんです」と目をやる先にはお盆のような形の「麹蓋」が壁のように積み重なっていた。現代の麹造りは機械制御で一定品質を目指すのが一般的。しかし石孫本店では全量麹蓋を使い、人の目と手だけで世話をする。昼夜問わず数百枚の麹蓋の管理をするのはとにかく手がかかるもの。それでも昔のまま続ける理由を石川さんは微笑んで答えた。

「難しいことは抜きに、何度も触って『自分たちがおいしく造った』という実感を持って、全ての作業に愛着が湧くことが第一です。それを求めた結果が 手造り。仕事は楽しくて喜びがないと寂しいでしょ」

30石の木桶1本分に対し、なんと900枚もの麹蓋を使って麹を造る。夜間も2時間おきに娘の果奈さんが管理をする。

一人一人の仕事が見えて自主性が生まれる

石孫本店に並ぶ道具はどれも手仕事用のもので今では見なくなったものばかり。設定通りに動き、均一な仕上がりの機械制御ではなく、人の手が頼りな 昔ながらの道具を使うから、醤油造りとの蔵人一人ひとりとの関わりが見える。

「だから互いに口を出し合い、もし自分の方が正しければ『ほらみろ!』と言ったり(笑)。そんな関係がいいですね」

また、社員は様々な局面で自発的。掃除も自分たちで話し合って、自らの手で雑巾がけ。仕事の空き時間にはそら豆で味噌を造ってみたり、休憩室にあるストーブで料理をしてみたりと好きに動く。

「しかも私が休憩室に入ると、社長の分はないですよとか言われるんですよ(笑)。そんなのしばしば。日頃の仕事も私から指示はせず、自分たちで相談して動いています。逆に私はどうなっているか聞いて把握していますよ。もうね、うちは若者が一番偉そうなの」

子育て上手の母親のような石川さんに見守られて生まれた醤油は、家族を想って作られた家庭料理のように心和らぐ香りがする。

愛情いっぱいの石川裕子さん。
蒸した大豆と煎った小麦を敷き、種麹をかけて人の手で混ぜる。まるで神事のように厳かで美しく、見惚れて息を呑んだ。
大正時代から100年以上使い続ける麦炒り機。燃料は高温で燃え続ける事ができる「石炭」を使う。

昔ながら造りで産む柔らかな香り「百寿(ひゃくじゅ)」
石孫本店の蔵の中と同じ心和らぐ香りが広がる。秋田産の丸大豆と小麦を使い、麦は石炭で熱して煎って仕込む。材料も製法も昔ながらにこだわり造り上げた一本。

300mlビン ¥530(税込)、1Lペットボトル ¥1,180(税込)/原材料:大豆、小麦、食塩

醤油感覚で使える味噌の上澄み「みそたまり」
長期熟成の味噌の上澄みをさらし袋に吊り下げ、自然に滴り落ちた「旨味」エキス。澄んだ琥珀色とコクが特徴。豚の生姜焼きやオリーブオイルとあえてソースに。

300mlビン ¥780(税込)、1Lペットボトル ¥1,730(税込)/原材料 : 米、大豆、食塩

愛情が湧くものを受け継いでゆく:根田醤油

https://neda-shoyu.jp/(見学可・要予約)

木桶を使う多くの蔵が金属輪に移る中、竹箍を重んじ続ける。

「木桶には愛着があるんです。それも、金属輪ではなく竹箍がいい。好きだから諸味を管理する時も気持ちが入ります」と、9代目鈴木豪彦さんは愛くるしい表情で木桶を眺める。そして、幼児の息子さんのことを話す時も同じ表情。「今のお客様は、先代が築いてくれたもの。僕も息子が継ぐ可能性を考えて、木桶の価値をもっと活かした基盤を築く。『根田の木桶醤油』もその一つ」と、曇りなき表情で話す。

9代目鈴木豪彦さん。様々な蔵に学びに行き、より良い麹造りを試みる。

根田の木桶醤油
地元では甘い醤油が根付くが、大豆・小麦・塩だけの醤油を求める声が高まったため、2022年に産み出した。

180mlビン ¥432(税込)/原材料:大豆(国産)、小麦(国産)、食塩/アルコール

 

少しずつ、丁寧に、手作り:鈴木醤油店

https://hishiogura.jp/(見学可・要予約)

木桶は僅か10本。全て手で攪拌し、念入りに管理する。

「量より質」とはこの蔵のことか。大豆を蒸す時も木桶を用い、麹は麹蓋で 4日かけて作り、木桶に仕込んで約3年熟成。麹蓋で麹を作るというだけで手間なのに、「より細やかな管理をするために、麹蓋一枚に盛る量を減らしました」など、緻密な手仕事を極める。しかし「道具や材料は謳いません。味で判断してもらいたいから。例え材料の状態が違っても技でうちの味にする」。職人気質の骨頂だ。

6代目鈴木良浩さんと女将洋子さん。
火入れも得意で直火で勝負。

平右衛門
木桶で約3年熟成した醤油を、4時間直火で火入れして作った、どこか懐かしい印象を持つ醤油。

360mlビン オープン価格/原材料:大豆、小麦、食塩

 

ふるさとの自然を活かす:佐々長醸造

https://sasachou.co.jp/(見学可・要予約)

醤油を仕込んだ桶。全て手で攪拌する。

早池峰山麓一帯の雪解け水が浸透し、長い年月をかけて産み出されたミネラル豊富な地下水を仕込みに使い、香り豊かな醤油に。米由来の自然な甘さも功を奏し好評を博す。

堅実な人柄の5代目佐々木洋平社長。
大自然に囲まれたロケーションで育む。

岩手名産 生醤油

500mlビン ¥1,134(税込)/原材料:大豆、小麦、米、食塩

 

秋田を代表する醸造所の1つ:小玉醸造

https://www.kodamajozo.co.jp/

「甘塩醤油」や減塩醤油も造るなど、秋田県の人々の好みや暮らしに寄り添った醤油を造る。

味噌醤油と日本酒の醸造元。ヤマキウ味噌は秋田県一の生産量を誇り、清酒「太平山 」は秋田県を代表する銘酒。地元の秋田杉で造った大きな木桶が72本も並ぶ姿は壮観。

小玉真一郎社長。

ヤマキウ杉桶仕込み三年醤油

720mlビン ¥1,371(税込)/原材料:小麦、食塩、脱脂加工大豆、大豆、アルコール

 

郷土料理に必須の甘口だし醤油:丸十大屋

https://marujyu.com/

ISO-9001・22000 認証、しょうゆ JAS-Aシステム認定工場。第三者評価による標準化で品質も商品開発もレベルアップを目指す。

地元で愛されるだし醤油は山形県名物の芋煮に欠かせなく、スーパーにも1.8リットルがずらりと並ぶ。

天保15年創業。

味マルジュウ

1.8Lペットボトル ¥1,555(税込)/しょうゆ(小麦・大豆を含む、国内製造)、糖類(砂糖、ぶどう糖)、食塩、宗田かつお削りぶし、さば削りぶし、煮干、かつお削りぶし/アルコール、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草)、香辛料

 

「木桶」を鍵に価値を上げる:玉鈴醤油

https://tamasuzu.jp/(見学可・要予約)

自社用の大桶5本と、オーダーメイド用の1000Lの木桶4本導入。

蔵を大改装し、2023年に木桶を9 本入れ、木桶仕込みへと大胆に舵を切った。見学・体験にも力を入れる。

自社用は福島県の丸大豆を使う。

熟成醤油

270mlビン ¥713(税込)/原材料:食塩 ( 国内産 )、小麦、脱脂加工大豆、アミノ酸液、糖類(ぶどう糖、砂糖)/ アルコール、調味料 (アミノ酸等 )、カラメル色素、甘味料 (ステビア、甘草 )、ビタミン B1


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