醤油本 改訂版
第3回

醤油を知る〜3つの醸造法と製法の歴史〜

醤油という調味料は、私たち日本人の食卓に欠かせない存在でありながらも、あるのが当たり前だが実はあまり詳しく知らない、という方もいるのではないでしょうか。

醤油本 改訂版」は、醤油の歴史から製造過程の詳細、好まれる味の地域性や蔵元への取材などを通して、醤油への理解を深めることのできる一冊です。醤油に関する広範なデータをコンパクトにまとめており、読めば自分好みの醤油を探す一助になることでしょう。2015年に発行した同名の書籍から内容を更新し、蔵元データのアップデートを行いました。

本記事では第1章「醤油を知る」より、3つの醸造法と製法の歴史について解説します。

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醤油本 改訂版

醸造法は3つ

本醸造と混合・混合醸造は、原材料も風味も全く違う。JAS規格で製造方法の分類が定められている。

アミノ酸液の有無と入れるタイミングで変わる

生揚げ醤油にアミノ酸液を加えるのが「混合」。さらに前工程の「諸味」にアミノ酸液を加えて熟成させるのが混合醸造だ。熟成させることで、アミノ酸特有の香りを和らげることができる。なお、本醸造の中にもアミノ酸や甘味料などが入った混合・混合醸造に似た風味の醤油がある。あくまでアミノ酸液が入っているかどうかの違いであり、「本醸造=無添加」というわけではない。

醸造法や原材料はラベルに表記されている。ラベルの見方を知り、好みの醤油を購入しよう。

各醸造法ごとの出荷数

(2021年の農林水産省大臣官房資料をもとに一部業界推計。)

混合・混合醸造は、戦時中の食糧難が後押しして根付いた

混合・混合醸造とは「アミノ酸液」などを加えた醸造法。アミノ酸液は大豆などの穀物を塩酸で分解した旨味の液体で甘味料を併用することも多い。そのため混合・混合醸造の醤油は「甘い醤油」と表現される。

始まりは1907年。東京帝国大学の池田菊苗教授が昆布から抽出したグルタミン酸ナトリウムが旨味であると発見し、甘味、酸味、塩味、苦味に次ぐ第五の味と提案。その後、旨味を抽出する技術が開発され「味の素」などの商品が流通していく。

醤油業界でも脱脂加工大豆を塩酸で分解した粗製アミノ酸液を醤油に添加する試みが開始されるが、戦時中の1940年頃になると物資は一層不足し、アミノ酸液に甘味料やカラメル色素などの化学調味料を加えただけの、醸造しない化学的な醤油が市場に出回るようになる。

そして、1948年に醤油業界に大きな危機が訪れる。GHQは大豆の原料配分を「醸造醤油業界2、アミノ酸業界8」とすると内定したのだ。つまり醤油の原料となる大豆が入手困難になり、醸造した醤油が造りにくくなった。その判断の根拠は

  1. 醤油の製造には約1年かかるため食料難の時代に悠長な製法は認められない
  2. 原料の利用率が約60%で残りの40%は粕になってしまう。効率の悪い調味料の作り方は論外である。

これらの2点であった。その危機を救ったのが、キッコーマンの技術者が開発した「新式2号製造法」。これは半化学・半醸造する新しい製造方法で、アミノ酸も使ってアミノ酸醤油並みの高歩留まりにしつつも、醤油メーカーとしては守りたい「醸造」もする折衷案。

そして、特許を独占することなくその醸造法を全国の醤油メーカーに公開し、結果として 大豆の配給は「7:3」と逆転。醸造した醤油が残ることになる。そして一時は今で言う「混合醸造」に近い醤油が日本全体で流通した。その後原料が確保できるようになると、本醸造方式に戻っていく地域もあれば、混合や混合醸造方式に名称を変え、地域の味として残ったものもある。


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