駆け出しクリエイターのための お金と確定申告Q&A
第9回

機材を購入して節税できるって本当?

「確定申告」は、国税である所得税を自ら計算して、税務署に届け出るための手続きです。「税金を正しく納めるための仕組み」であり、知っておくと便利ですが、いまいちよくわからない、と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A」(桑原清幸・著)では、税金の基礎や収入の区分、帳簿の付け方から節税のコツまで、確定申告にまつわる素朴な疑問について、ケースごとの事例を交えながら、詳しく解説しています。

本記事では「節税方法」に関するQ&Aのうちの2つを紹介します。

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Q.
1年間の事業所得を計算してみたら、予想以上に黒字になりそうです。もうすぐ年末ですが、節税のために、何かできることはありますか?

A.
年内ならば、仕事に必要なものを購入して経費を増やすことです。年を越したら手遅れになるものもあるので、早めに事業所得を試算してみましょう。

年内にできる節税として、まず検討したいのは、経費を増やすことです。

カメラやレンズなどの機材や、パソコンやペンタブレットなど、そろそろ買い換えたいなあ、というものがあれば、年内に購入してしまいましょう。青色申告をしている方は「少額減価償却資産の特例」の恩典により、30万円未満だったら経費に入れられます。ただし、年間で合計300万円までです。

一方で、30万円以上のものを買うと「固定資産」にしなければならず、一括して経費に入れられません。年末に高いものを買っても、節税にならないのです。例えば、30万円以上するカメラを、慌てて12月に買ったとします。カメラは耐用年数が5年(60カ月)で減価償却をしていきますが、12月から使い始めたことになるので、月割でたった1カ月分、つまり購入金額の60分の1しか経費に入れることができません。これだと、何のために慌てて買ったの? という結果になりますから、高い買い物は慎重に検討しましょう。

また、年末ぎりぎりに買った場合も要注意です。例えば、12月30日にネット通販で注文したとしても、納品が翌年の1月1日になると、今年の経費にはできません。今年の経費にするためには、12月31日までに納品されて、かつ、実際に仕事で使い始めなければ、認められないのです。微妙なタイミングのものは、納品書をきちんと保管しておくようにしましょう。

そして、在庫もダメです。例えば、自分がデザインしたグッズなどの販売をしている方は、儲かっているからといって、年末に慌てて商品を大量に仕入れたとしても、売れた時まで経費にできません。年末に売れ残っていれば、そのまま在庫として棚卸資産に計上されるだけです。

こうした節税の話をすると、よく勘違いされるのですが、黒字を減らすために、必要がないものまで買ってしまうのは、本末転倒です。何かを買って経費にするということは、税率が20%(所得税10%%+住民税10%)だとすると、その分の税金が安くなるので、結果として20%引きで購入しているようなものです。

「割引セールで全品20%引き」と聞くと、ついつい要らないものまで買ってしまいませんか?無駄なものを買ってしまうと、税金は安くなっても、残り80%のお金は出ていってしまいます。税金を減らすこと自体が目的になってしまうと、ビジネスの本質を見誤ってしまいますので、十分注意してくださいね。

保険料を控除するには?

Q.
国民年金や国民健康保険、生命保険、地震保険など、たくさん保険料を払っています。保険料も控除できると聞きましたが、どうしたらいいでしょうか?

A.
国民年金や国民健康保険などの社会保険料や、生命保険料、地震保険料は、1年間の支払金額が多いため、その分多く所得控除ができる、節税のドル箱です。毎月たくさん支払っているのですから、漏れなく申告して、しっかり節税しましょう。

社会保険料控除(年金や健康保険)には金額の上限がありません。1年間に払った金額をそのまま控除できます。

国民年金であれば、過去の年金をまとめて払った場合でも、払った年にまとめて控除できます。2年分を一括して前納することもできるので(4月末までに納付が必要ですが、保険料が割引されます)、儲かりそうな年は、節税の手段として、年金を多く払うことも検討しましょう。また、国民健康保険料は世帯単位で請求が来ますが、あなたが他の家族の分を一緒に払った場合は、全員分まとめて、あなたの所得控除にすることができます。社会保険料控除は、あくまで「払った人が控除できる」という制度ですので、覚えておきましょう。

次に、生命保険料と地震保険料ですが、この二つは、社会保険料と違って、控除額に上限があります。生命保険料控除は最高12万円まで、地震保険料控除は最高5万円までです。生命保険料控除は、3種類(一般、個人年金、介護医療)あって、それぞれ上限額があります。新旧の契約で分ける必要があり、控除額の計算は少々ややこしいのですが、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」や会計ソフトに支払った保険料を入力すれば自動計算されます。

 


<玄光社の本>

 

<著者の新刊>

本書の著者・桑原清幸さんの新刊「駆け出しクリエイターのためのお金と独立準備Q&A」が10月29日に発売されます。本書と併せて、独立後の仕事とお金の管理に、是非お役立てください。


著者プロフィール

桑原清幸

(くわばら・きよゆき)
1972年群馬県渋川市生まれ。桑原清幸会計事務所代表。税理士・公認会計士。上智大学在学中に公認会計士試験に合格。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。大手会計事務所で20年間勤務したのち、独立開業。会計事務所とアートを融合したギャラリーKKAG(Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery)を設立。植田正治やソール・ライターなど写真を中心とした展覧会の企画制作を手掛ける株式会社コンタクトの財務担当取締役(CFO)を務める。暗室バーの税務顧問も務めるなど、会計専門家の立場からアートビジネスの発展を支えている。趣味は、ライカカメラ収集・写真の暗室作業の他、秘湯スタンプ集め、日本酒立ち飲み屋巡りなど。上智大学経済学部非常勤講師。

ウェブサイト:kkag.jp

書籍(玄光社):
駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A
駆け出しクリエイターのためのお金と独立準備Q&A

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