ステーショナリーディレクターとして文房具の商品企画やPRのコンサルティングを行う土橋正さんは、著書「暮らしの文房具」にて、じっくり使ってみて分かった、本当にいいと太鼓判を押す文房具を紹介しています。普段の生活から仕事まで、暮らしに寄り添い、長く愛用できる文房具とは、どのような逸品なのでしょうか?
ここでは、第1章「伝える」より「万年筆」と「便箋」を紹介します。
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宛名にこそ いい万年筆を使う
中屋万年筆
輪島漆塗り シガーモデル・ロングサイズ 黒
長さ166mm/最大径15mm/65,000円
見ていると吸いこまれそうな漆塗りの深みのある黒。手にすると指先一本一本の指紋までもが吸い付くような感触がある。一方でまろやかな感触もあり、いつまでも手の中でなで回していたくなる。手が喜ぶ魅惑的な万年筆である。
私は、この上質な万年筆を宛名書き専用として愛用している。なんとも贅沢な使い方だ。一般的にいい万年筆というものは原稿執筆や手紙の文面など、それなりのシーンで使うべきというイメージがある。しかし、私はこう思う。宛名書きというものは手紙の中身より先に相手の方が見る、言わば手紙の顔であると。むしろここにこそ筆記具にこだわるべきなのではないか。
凹凸のある紙で書き味を味わい直す
オリジナルクラウンミル
レイドペーパー 便箋 クリーム
A4(297×210mm)/50枚/天のり綴じ/1,800円
万年筆で書いていて、紙とペン先の間の摩擦がそれこそ限りなくゼロに近くスムースに進んでいる時、万年筆っていいなぁとそれはそれは幸せな気分になる。私はこのスムースさこそ、万年筆ならではの醍醐味だと、そう思いこんでいた。
しかし、この紙と出会い、また違った幸せ具合があるぞと思い知らされた。この紙には緩やかな凹凸がある。よくケーキを作る時にクリームをヘラでならしていくが、その時につくヘラ跡のようなあくまでも緩やかな凹凸だ。万年筆のペン先を紙面にそぉっと添えてゆっくりと走らせてみる。するとペン先がその紙面の凹凸を上っ下ったりするのが手に伝わってくる。それがとても心地よいのだ。書き味というものは、必ずしもなめらかさだけではないと、この紙は私に教えてくれた。
私はこのクリームのレイドペーパーを少々改まったレターを送る時に使っている。たとえばお世話になった方に自分の本を贈呈する時など。と言っても、全てを手書きする訳ではない。文面はワードで作ってプリントアウトする。この紙はプリンターとの相性もよい。プリントしたら文末に太字の万年筆で直筆の署名を書きこむ。インクはブルーと決めている。クリーム色の紙面にはブルーがとても映える。
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いかがでしょうか?ここまでステーショナリーディレクターの土橋正がオススメする、暮らしに寄り添い長く愛用できる文房具をご紹介しました。ぜひ皆さんも自分にライフスタイルやワークスタイルにあった逸品を探してみて下さい。
<玄光社の本>