和風ファンタジーの世界観は、アニメやゲームなどで人気のある類型の一つです。わたしたちが歴史の中で垣間見る過去の日本とは似て非なる日常生活の様相には、その世界でこれから繰り広げられる物語への期待を掻き立てる魅力があります。
「和の幻想世界の描き方」では、イラストレーター七原しえさんが、イラストの背景にある設定のほかアイデアを発想するコツ、イラストに仕上げるまでの制作手順を詳細に解説。世界観の設定からイラストレーションを起こす技術を身につけられる一冊となっています。
本記事では序章「作品ギャラリー&独自解説」より、「蛇神」「婚姻」をテーマにしたイラストの例を紹介します。
蛇聟入り
異類婚姻譚『白蛇の花嫁の物語』
七原しえ’s comment
イメージよりもかなり明るい仕上がりになったため、蛇や綿帽子、紙垂の白の明るさをぐっと落として最後に全体の明暗を調整しました。本来はかなりカラフルなイラストですが、白の明度が低いため全体的に落ち着いた色合いになったかと思います。婚礼道具と花嫁衣装は形や模様をあらかじめ下調べしています。
ファンタジーイラストではありますが、『和柄=伝統性』でもあるので、和の基本的な構造や色合い、意味合いなどあらかじめ理解しておくと、どこに独自のアレンジを加えるかのアイデアが沸きやすくなると思います。
世界観・こだわりポイント
花姿の娘に巨大な白蛇、眷族の小さな白蛇、婚姻道具や和風の雲などを織り交ぜ、絵巻物・絵本の挿絵的な雰囲気をイメージして描きました。日本の昔話によくあるような蛇との異類婚姻譚をベースにしています。
豪華な花嫁姿に寿と印の入った盃があったりと典型的な祝言のしつらえでおめでたい様子ですが、人物は『奉納』と記された立て札に縛り付けられていたり、白蛇はよく見ると毒蛇に近い形状をしていたり……もしかしてこれは生贄の儀式・人身御供なのではないか、花嫁が吹く笛で蛇の怒りを収めて本当にめでたしめでたしになるんだろうか、など華やかさの中にじんわりと不穏さを感じさせるようなイラストにしました。