トミーのコンセプトアート教室 マンガと添削で楽しく学べる!
第5回

「絵の説得力」を上げてコンセプトアートの完成度を高めよう

人の頭の中にある概念や構想、いわゆる「コンセプト」を他者に伝えようとするとき、絵の力は強力に作用します。遠い将来や、開発前の製品など、具体的な像が定まらない目標に向かうことはとかく困難になりがちですが、「目的を達成した後の世界」を絵として具体化し、他者と同じイメージを共有することで、一つの完成形や目標に向かって、迷いなく進むことができるようになるのです。

トミーのコンセプトアート教室 マンガと添削で楽しく学べる!」では、コンセプトアーティストの富安健一郎さんが、コンセプトアートの考え方と始め方、上手なコンセプトアートの描き方を、佐倉おりこさんのマンガとともに詳しく、かつ、わかりやすく解説しています。

後半では、事前に公募したコンセプトアートの添削や、富安さん自身によるコンセプトアートの制作手順も紹介。初めてコンセプトアートを描こうと考えている人にも実用性の高い内容となっています。

本記事では、PART2「トミーの添削教室」より、事前に公募したコンセプトアートの添削を抜粋して紹介します。

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トミーのコンセプトアート教室 マンガと添削で楽しく学べる!

テーマ:5W1Hの設定を作って描く「カモメに誘われて」

作成者:CouldOH

ORIGINAL

5W1Hの設定
夏に、海岸沿いで当てもなく旅する根無し草が、カモメの行く先に任せて知らぬ土地にたどり着き、休憩がてら地図を眺めている。

イラストコンセプト
見た人にとにかく「旅に出たい」と思わせる作品を目指しました。手前右下を影にして額縁構図にしつつ旅人のシルエットをよく見えるようにし、かつ眼前に広がる街や山の明るさや賑やかさがより際立つように試みました。

空飛ぶカモメや船の行く先、道路と道路標識、バイクの向きと旅人の視線、そして雲の形状など、これらの向く方向を街のある画面中央左に向けることで緩やかな集中線を描き、これからあの街へ向かうのだという意志が感じ取れるように作成しました。

Tommy’s Check

トミーのコメント
この絵はとっても上手ですね!イラストとしてすごく完成度も高くて、100点をつける人もいるのではないでしょうか?とても色んな所にアイデアや工夫やテクニックが詰まっています。

ここからさらにクオリティを上げて300点のコンセプトアートを目指す道は想像以上に険しいかもしれません。しかしここまで上手に描けるのであればもっと上を目指せるはずだと思い添削に選ばせていただきました。すでに上手なのにさらに上達しようとしているこの絵の作者も素晴らしいですね。

この絵は、全体的に「イラスト」感があります。イラストとしては文句のつけようがない作品だと思いますが、これを説得力のある完成度の高いコンセプトアートにしていくにはどうしたらよいでしょうか?私もそのことですごく悩んだので、この作例を使って提案していきたいと思います。

もしかしたら読者の中には、ここから完成度を上げていくことに必要性を感じない人もいるかもしれません。しかし実際のコンセプトアートの現場では、常に他の最高のクオリティのものと比べられますので、妥協はできません。

まずは空から丁寧に見直していきましょう。私は雲の形に若干のスケール感の消失を感じました。もっとこのアートの魅力を出す気持ちのいい抜け感がある空模様が似合っていると思います。そこで著作権フリーの空素材を複数枚組み合わせて抜け感のある空を作ってみました。

次に大きな構成を考えます。手前の人物と道がやや窮屈そうです。その反対に遠くの山の形が安定し過ぎていて、鑑賞する時に目の落ち着く所がないように感じます。これを解消するため手前の人物と道を少し大きくしてのびのびとした印象をもたせ、奥の山のサイズを少し小さくしてみます。

左の砂浜がある辺りが画面の端っことつながってしまっていて、どうしてもそこに目がいってしまいます。原則は「重ねるものは重ねる。離すものは離す。くっつけるものはくっつける」です。微妙な位置関係はそこに意味が生まれてしまうので、画面から離しました。これで陸が続いている感じも出ました。

奥にある街がやや大きくてスケール感が崩れて見えてしまうので、少し小さくしましょう。この絵のポイントの一つである「道をたどる」を表現するうえでも遠くのものは遠くにあるように調整します。

中央奥の大きな山を小さくしてみましたが、まだ奥に抜けるような爽快感が足りないように感じます。山の左右の陸地がずっと奥まで続いている感じをもっと出したいと思います。この地方は中央の山のように面白い形の山があるのが地形上の特徴で、その絶景ポイントにたどり着いた主人公ということにすると、よりこの絵の魅力を見ている人に伝えられるのではないでしょうか?そこで奥にまで続くすごくとんがった山を左右に入れて、この場所は絶景が見られるポイントなんだ。ということを強調しています。

道路にある標識も大きさと位置を少し変更しています。これはこの絵の物語性を表すのにとても役に立っていますね。ただ、説明的になり過ぎず「感じさせる程度」にしたほうがよいので、光を使って印象を弱めています。

中央の山付近に街があって、山肌までの家が侵食している様子がとてもよいアイデアだと思います。せっかく山の形を変えて上に伸ばしたのでこの住宅街も山の上のほうまであると楽しいかもしれません。

手前から続くうねりのある峠道、思わず叫びながら走りたくなるようなよい道ですね。そのうねりがより感じられるように道の形などを調整しています。

「ものがある場所の前にものを置く」も奥行きを感じさせるための絵の鉄則です。大きな山がある手前の街に少し大きな塔があるとさらに奥行きが増して見えます。さらに門のような構えがあってもストーリーが広がりそうです。

練習方法として「写真の色を加工してより魅力を引き出す」というのがあります。絵にも色やトーンの調整は必須です。もともとこの絵はよく調整してありますが、少し色味が寂しい気がしたのでよりこの絵に似合う希望に満ちたような色合いになるように調整してみましょう。

よく晴れた日に太陽の光で雲が光っているような現象がありますが、そのような感じを意識して画面から光を感じるようにしてみました。

一生懸命描いた絵を変更するのはとても嫌なものです。しかし少しでも作品がよくなるように最善の道を探していくとそれが完成度を上げることにつながります。


トミーのコンセプトアート教室 マンガと添削で楽しく学べる!

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