『しんじゅのこ』『イリヤ・クブシノブ画集 ETERNAL』など、イラストレーション編集部オススメの本

『しんじゅのこ』

渡邉良重:え 福永信:ことば
(リトルモア)1,800 円+税 BD:渡良重(キギ)

6年という長い歳月と多くの手間暇をかけて作られる「びわ湖真珠」。『ブローチ』、『アンドゥ』などこれまで数々の絵本を手がけてきた渡邉さんが、その生産や販売に携わる人たちと出会い、「真珠」と「少女」の美しい物語が生まれました。

静謐さをたたえる絵と、今回タッグを組んだ小説家の福永信さんが紡ぐ「問い」と「答え」の心地よい言葉のリズムは、真珠について語っているようで、幾重にも重なる時間の尊さをも描き出します。詳しい生産過程を知ることの出来る、付録の解説冊子「びわ湖真珠ができるまで」も興味深い。

『しんじゅのこ』


『山風にのって歌がきこえる大槻三好と松枝のこと』

惣田紗希著
(タバブックス)1,700 円+税 装丁:惣田紗希

昭和初期の群馬県太田市で教員、歌人として出会い結ばれた大槻三好と松枝。2018年太田市美術館・図書館で開催された展覧会を端緒に、惣田さんが選歌、執筆、イラストレーション、装丁と一手に手がけ、新たな歌集を紡いだ。右ページに松枝、左ページに三好の歌を配するルールと、軽やかにページを行き来するイラストレーション、それを支えるデザインは、かけがえのない日々を綴った2人のみずみずしい歌への没入をより一層深くする。

『山風にのって歌がきこえる大槻三好と松枝のこと』


『目で見てかんじて 世界がみえてくる絵本』

ロマナ・ロマニーシ+アンドリー・レシヴ著 広松由希子訳
(河出書房新社)2,000 円+税 装丁:永松大剛

ウクライナの新進アーティストが、身体的に、科学的に、芸術的にと、さまざまな方法を駆使して“視覚”に光を当てた絵本。内容をよりよく伝えるため腐心された絵やデザイン、印刷にも惚れ惚れとする。作中の「毎日わたしは、あたらしいなにかをしり、はじめて見るように世界をみつめる。」という一文どおり、“ 見ること”はこんなにも豊かで面白かったのかと気付くだろう。聴覚をテーマにした姉妹作『うるさく、しずかに、ひそひそと』も注目。

『目で見てかんじて 世界がみえてくる絵本』


『イリヤ・クブシノブ画集 ETERNAL』

イリヤ・クブシノブ著
(パイ インターナショナル)2,300 円+税 D:有馬トモユキ(TATSDESIGN)+田中千春

本誌216号でも特集したイリヤ・クブシノブさんの画集第2弾は、初画集『MOMENTARY』以降のオリジナル作品を中心に300点以上を収録。さらに、キャラクターデザインを手がけた映画「バースデー・ワンダーランド」や「攻殻機動隊 SAC_2045」のビジュアルなども紹介する。前作から3年、ますます活躍の場を広げるイリヤさん。その軌跡の多彩さには、自ずと圧倒されてしまう。

『イリヤ・クブシノブ画集 ETERNAL』


『ZENOBIA』

モーテン・デュアー:文 ラース・ホーネマン:絵 荒木美弥子訳
(サウザンブックス社)2,300 円+税 装丁+本文 D:髙橋奈央(I’ll products)

デンマークに住む作家とイラストレーターによって描かれた、シリア内戦下に生きる少女の物語。遠く離れた土地はどこか異世界のようにも感じられるが、両親と生き別れ、安住の地を求めるも叶わず息絶えた主人公・アミーナは私やあなたであったとて決しておかしくはない。力強くも情緒的なグラフィックと口数少なながら確固たる想いに満ちた文章は鎮魂歌のようでもあり、戦争の意味や他者を想い、知ることの重要性を静かに投げかける。

『ZENOBIA』


『武将を描く 戦国・三国志+天使』

長野剛著 玉神輝美監修
(ホビージャパン)2,400 円+税 装丁:板倉宏正(リトルフット) D+DTP:アトリエ・ジャム

歴史シュミレーションゲーム「信長の野望」のパッケージイラストレーションを手がけ、これまで歴史上の人物を鮮やかに描いてきた長野剛さん初の油絵技法書。今回のために描き下ろした織田信長、三国志の孫尚香、天使の制作過程を余すところなく紹介するほか、迫力のある構図、甲冑や着物など各パーツのポイントについて詳細に解説。いままでに描いた表情豊かな武将たちも多数掲載されているため、作品集としても楽しめる1冊。

『武将を描く 戦国・三国志+天使』


『美学校1969-2019 自由と実験のアカデメイア』

美学校編
(晶文社)2,700 円+税 BD:佐藤直樹+菊地昌隆(アジール)

赤瀬川原平、中西夏之、澁澤龍彦、会田誠、菊地成孔など、錚々たる顔ぶれが講師として名を連ねてきた東京・神保町の美学校。本書は、創立50周年を迎える同校初の編著だ。

学校案内や校史を知るだけでもそのユニークさに舌を巻くが、豊富に掲載されている関係の深いアーティストたちからの寄稿やインタビューを読み進めれば、外からは知ることの出来なかった美学校のリアルを、多角的な視点から捉えることが出来る。

『美学校1969-2019 自由と実験のアカデメイア』


イラストレーション No.225 2020年3月号

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