『美しい幻想世界とキャラクターを描く』は、鮮やかな色彩と独自に作り込まれた世界観で人気のイラストレーター・藤ちょこさんが、アジアンファンタジー、西洋ファンタジー、和洋中折衷なファンタジー、SFファンタジーという4つのテーマで描き下ろされた4作品に沿って、キャラクター造形や描き方を解説したメイキング・ブック。
本連載では、アジアンファンタジー世界を描いた作品『怪は闇夜に踊る』の制作プロセスを追いながら、藤ちょこさんのクリエイティビティの秘密をご紹介します。
第1回は、世界観の広げ方とキャラクター造形の基本について。
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アジアンファンタジー世界の描き方
『怪は闇夜に踊る』
これから物語が始まる高揚感、たとえるならコミックス1巻のカバーをイメージして描きました。「犬張子」と「巫女服」という二つの要素を組み合わせてキャラクターを作りました。大好きな「犬張子」の擬人化が描けて満足です。このように躍動感のあるイラストは、私にしては珍しいかもしれませんね。
キャラクターのイメージから物語の世界観を広げる
「犬張子」と「巫女服」という二つの要素を組み合わせて作ったキャラクターのイメージから、背景となる物語の世界観を広げていきます。
街の中心に大きな穴が開いていて、その側面にも建物が連なっている。街に伝わる伝説によれば、この穴は大昔、“大いなる怪異”と戦った際にできたもので、穴の底には今もその怪異が封印されているとか。
主人公は、怪異が身近にある世界で、街を守るために日々妖怪退治に繰り出す女の子。もともとは、大穴のキワに立つ神社に飾られていた置物の犬張子だった、いわゆる付喪神(つくもがみ)。神社の神主を慕っていて、老齢のため妖怪退治ができなくなった神主の代わりに、日々奮闘している……。
一枚のイラストをパッと見せて、これらの設定を全て伝えるのはもちろん無理です。しかし、絵を見た人が、それぞれの物語を想像して世界観を広げられるように、大きな柱や不思議なデザインの提灯などギミックを感じさせるモチーフを散りばめています。そのようなモチーフを発想するために、作者の中に世界やキャラクターの設定があると良いのです。
ただ、はじめから「きっちりと設定を決めてから描かなきゃ」と気負うと、絵が固くなってしまうので、描きながら設定を広げていくようにしています。今回も、描き進めながら思いついた設定がいくつかあります。
キャラクターデザインを描き出す
まず頭の中にあるぼんやりとしたイメージを描き出していき、キャラクターデザイン案を作っていきます。
①刀
戦う女の子なので刀を持たせます。後々、刃と柄の境目を着物の衿の重ねのようなデザインにしました。
②大幣(おおぬさ)
はじめは大幣が巻き付いているようなデザインを想定していましたが、後々大幣は別アイテムとして分け、神楽鈴を取り付けたデザインに変更しました。
③犬張子
犬張子とは、江戸時代の伝統的なデザインの置物のことです。それを擬人化したキャラクターを主人公に設定しました。
④巫女服
巫女服から「神社に従事している設定はどうか」と思いつき、上で解説したような世界観が広がっていきました。
⑤ショートパンツ
日々、妖怪退治に繰り出しているキャラクターに活発な印象を持たせたかったので、ショートパンツをはかせることにしました。
⑥提灯
提灯には、大きな技の発動に必要な霊力が溜められています。替えの利く道具ではないけれど、永らく使っているためあちこちガタがきています。破けたところを、お札で修理しているようなイメージです。
⑦お供
お供の犬張子は、神主が少女へ指示を飛ばすための子機のような役割を持つ式神です。
これまでの作品にも、犬張子そのものや、それを擬人化したキャラクターが何度か登場しています。
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