絵画に描かれた「いわくつきの美女」や、さまざまなエピソードを持つ「いわくつきの美女絵画」など、280点の西洋絵画を美術評論家の平松 洋氏の解説で紹介する本書「西洋絵画入門! いわくつきの美女たち」。神話の女神から、キリスト教の聖女や寓意像の美女、詩や文学に登場するヒロイン、王侯貴族の寵姫や貴婦人、そして高級娼婦まで、いろいろなバックストーリーに彩られた「美女たちの名画集」としても楽しめる一冊となっています。
ここでは、本書から、いわくつきの美女たちをご紹介していきます。
第4回は「宗教画〜キリスト教の聖女たち〜」から『ダヴィデ王の手紙を手にしたバト・シェバ』(ヴィレム・ドロスト作)をご覧ください。

王を魅了した美女の深い内省性はレンブラント譲り

『ダヴィデ王の手紙を手にしたバト・シェバ』
1654年
キャンヴァスに油彩 103×87cm
ルーヴル美術館
なんと美しい女性裸婦像でしょう。17世紀オランダで描かれた裸婦画の中でも1、2を争うものでしょう。
裸体の女性は、旧約聖書サムエル記下第11章に登場するウリアの妻バト・シェバです。水浴の彼女を、王宮の屋上を散歩していたイスラエルの王ダビデが見初めます。多くの画家は、水浴している彼女を王が覗く場面を描いていますが、ドロストは、ダビデ王からの恋文を手に、人妻であるバト・シェバが思い悩む場面を描いています。
真っ暗な背景から浮かび上がるのは、彼女の深い内省性です、その意味では、下のレンブラントが描いたバト・シェバに似ていないでしょうか。しかも、不思議なことに、両作品は同じ制作年です。種を明かせば何でもないことで、ドロストは、レンブラントの弟子で、多分、ドロストが師の作品を参照して描いたのでしょう。

『ダヴィデ王の手紙を手にしたバト・シェバ』
1654年
キャンヴァスに油彩 142×142cm
ルーヴル美術館
裸婦画の主題となった水浴の美女
窃視者に覗かれる水浴の美女を覗く

『バト・シェバの水浴』(『ルイ12世の時禱書』より)
1498~99年
バト・シェバの主題は、8世紀頃からすでに装飾写本に登場し、半裸か全裸の彼女を王が覗いている場面が描かれてきました。裸体画が禁忌だった中世においても裸婦として描かれてきたのです。ただし、13世紀までは、室内での湯浴みでしたが、15世紀には、屋外での沐浴を描いたものになり、上の写本では局部まで描いています。
しかし、バト・シェバの水浴が描かれた絵の中に、カール・ブリューロフの『バト・シェバ』のように、いくら探してもダビデ王が見当たらないものがあります。でも、ご安心ください。その場合でも、実は、ダビデ王と同じ存在が用意されているのです、それは、今、彼女の裸体を凝視しているあなた自身に他なりません。もっと言えば、自分以外の窃視者を探す行為も、彼女の裸を独占したい、他の男には見せたくないという窃視者の心理や行動をなぞるものでした。
いずれにしても、バト・シェバの絵は、見るものを王と同じ窃視者に変える絵だったのです。

『入浴中のバト・シェバ』
1700年頃

『バト・シェバ』
1832年

『バト・シェバ』
1889年
