絵画に描かれた「いわくつきの美女」や、さまざまなエピソードを持つ「いわくつきの美女絵画」など、280点の西洋絵画を美術評論家の平松 洋氏の解説で紹介する本書「西洋絵画入門! いわくつきの美女たち」。神話の女神から、キリスト教の聖女や寓意像の美女、詩や文学に登場するヒロイン、王侯貴族の寵姫や貴婦人、そして高級娼婦まで、いろいろなバックストーリーに彩られた「美女たちの名画集」としても楽しめる一冊となっています。
ここでは、本書から、いわくつきの美女たちをご紹介していきます
第2回は「神話画~神々と美女たちの物語~美を巡る神と人の物語」から『ダナエー』(グスタフ・クリムト作)をご覧ください。

エロティックなポーズを借用した恍惚の美女

『ダナエー』
1907~08年
キャンヴァスに油彩 77×83cm
個人蔵
ダナエーを見初めた最高神ゼウスは、黄金の雨になって、彼女を襲います。頬を紅潮させたその顔には、恍惚の表情が浮かんでいます。描いたのは、黄金様式で知られるクリムトです。体を丸め、股間を開くポーズはなんともエロティックですが、クリムトの発明ではありません。元になったのは白鳥に化けたゼウスに凌辱されるレーダーのポーズで(下図)、黄金様式の画家だけあって、黄金の雨に襲われるダナエーに転用していたのです。

『レーダーと白鳥』(ミケランジェロの模写)
1600年頃
板に油彩 64.5×80.5cm
個人蔵
ルネサンスに古代ギリシャの文芸は復活しますが、実は裸婦画のポーズさえも復活したのです。しかし、レーダーのポーズはあまりに艶めかしく、これを復活し得たのは、レオナルドとミケランジェロだけでした。両巨匠作は紛失していますが、ルーベンスをはじめ模写が何点か残されていて、レーダーのポーズを踏襲できたのです。
