
写真の会は、第35回「写真の会」賞を決定した。2025年7月20日(日)に開催された審査会を経て、本賞は金村修氏の作品集および展覧会『Gate Hack Eden』[作者:金村修][写真集制作:ori.Studio]が受賞。また、特別賞には福岡アジア美術館の『アジアン・フォト・ヒストリー』が選ばれた。授賞式は、2025年12月13日(土)に東京都内で開催予定。詳しい情報は、後日「写真の会」ホームページなどで発表される。
<受賞作品と作家の紹介>
【第35回 写真の会賞 受賞作品】
作品集と展覧会「Gate Hack Eden」に対して[作者:金村修][写真集制作:ori.Studio]
・作品集 「Gate Hack Eden」(ori.Studio、2024年)
・展覧会 「”Gate Hack Eden”」(CAVE-AYUMI GALLERY、2024年)



【選評】
「Gate Hack Eden」は、中国のデザイン・出版ユニットであるori.Studioが主導し、金村修の写真・コラージュ・ドローイング・映像による作品を一つにまとめたプロジェクトである。その成果は展覧会と写真集で示された。展覧会は、金村の代名詞ともいえる都市のモノクロームプリントを中心に、雑誌やスポーツ新聞の見出しの暴力性をそのまま集積したコラージュ、幾何学的なフォルムのドローイング、都市のノイズを拾い上げた映像などからなり、写真を中心に拡散するイメージが蜘蛛の巣状に広がる作者の自意識を想起させるものだった。写真集は、展覧会におけるイメージの拡散とは真逆にこれら金村の作品を一塊に圧縮した。ori.Studioがデザインした写真集は、金村の作品を紙に印刷し一点づつ切断、これを250枚単位でこざね状に束ねた冊子を作り、4冊を重ねてモノリス形状に装幀したものだった。アートブックの常識を逸脱する挑発的なデザインは、「Gate Hack Eden」の依り代であると同時に、金村の活動を体現する具象としても捉えられた。本作は写真から始まった表現がコラージュ、映像、ドローイング(絵画)へと拡張しながら作家と社会が抱えるアイデンティティの問題を記述、同時に写真が他のメディウムと融合していきながら、異形態へ変態しうる可能性を示す格好の事例となった。
【プロフィール】
金村修 Osamu Kanemura
1964年、東京都生まれ。写真家。
東京綜合写真専門学校在学中の1992年、オランダの「ロッテルダム・フォト・ビエンナーレ」のメイン企画展「Wasteland, landscape from now on」に作品が選出される。
1993年、東京綜合写真専門学校を卒業。同年、最初の個展を開催。
1995年、写真集『Crash Landing』を刊行。
1996年、ニューヨーク近代美術館の「New Photography 12」に「世界に注目される6人の写真家」の一人に選ばれる。
1997年、東川町国際写真フェスティバル新人作家賞を受賞。2000年、土門拳賞を受賞。
2014年、伊奈信男賞を受賞。主な写真集に『Happiness is a Red before』(蒼穹舎、2000年)、『SPIDER’S STRATEGY』(オシリス、2001年)、『I CAN TELL』(芳賀書店、2001年)、『In-between 12 金村修 ドイツ、フィンランド』(EU・ジャパンフェスト日本委員、2005年)、『ECTOPLASM PROFILING』(リブロアルテ、2014年)、『CONCRETE OCTOPUS』(オシリス、Pierre von Kleist、2017年)、『Lead-palsy Terminal』(paper company、2021年)、『Gate Hack Eden』(ori.Studio、2024年)がある。著書に『漸進快楽写真家』(同友館、2009年)、『挑発する写真史』(タカザワケンジとの共著、平凡社、2017年)、映像論集に『Beta Exercise: The Theory and Practice of Osamu Kanemura』(punctum books、2019年)などがある。
2021年、ニューヨークのdieFirmaで個展「Looper Syndicate」を開催。
ori.Studio(おり・すたじお)
2016年にカナダ人のMaxim CormierとFan Xuechen(范雪晨)によって設立されたデザインスタジオ。グラフィックデザイン・リサーチ・出版を業務として中国・北京を拠点に活動中。海外のアーティスト、出版社、デザイナーとの協働、展覧会の共同開催をはじめ、書籍の形態を超えるユニークなアートブックの編集・デザインを積極的に行っている。
https://ori.studio/
【第35回 写真の会 特別賞受賞作品】
展覧会「アジアン・フォト・ヒストリー」福岡アジア美術館 [担当学芸員:趙純恵]
※福岡アジア美術館 会期:2024年10月31日(木)~12月17日(火)

【選評】
「アジアン・フォト・ヒストリー」は、アジアにおける写真表現の時代変遷をテーマとする企画展である。1870年代に西洋向けの輸出用・土産品として制作されたエキゾチックな写真に始まり、1930年代のピクトリアリズムを経て、やがてセルフポートレートをはじめとする自意識を表現するメディアとして、写真が用いられていく過程を見せる。とりわけ、1930年代以降にアジア各地で展開された写真表現の多様性を示した点は注目すべき成果であった。欧米や日本の動向については広く共有されている一方で、アジア諸地域の展開を知る機会は限られており、コレクションを通じてそれらを紹介する試みは、日本国内では希少な展示事例であった。アジアの都市・福岡という地理的文脈を踏まえ、従来の欧米中心あるいは日本国内中心の枠組みに偏った写真史的叙述に対し、植民地支配という歴史を踏まえた新たな写真史の視点を提示した点を評価した。
【展覧会概要】
2024年10月31日(木)~12月17日(火)まで福岡アジア美術館で開催された企画展。
1870年代から2000年代以降まで5つの時代区分で、アジアの写真表現の時代変遷を追った。
展覧会情報:https://faam.city.fukuoka.lg.jp/exhibition/22493/
<選考会参加メンバー>
アイハラケンジ、井鍋雄介、沖本尚志、河島えみ、北 桂樹、小林紗由里、タカザワケンジ、深川雅文、藤村里美。生井英考(オブザーバー)、福田慎一(サポート会員)。(50音順・敬称略)
<第35回 写真の会賞 授賞式情報>
会期:2025年12月13日(土)18:00〜20:00
会場:東京都内にて開催予定
※詳細は写真の会ホームページに掲載予定
写真の会ホームページ:https://shashin-no-kai.com/