写真に限らず、芸術表現の場ではしばしば「自分らしい」表現に価値があるとされます。ではそこで求められる「自分らしさ」とは端的に言ってどのような過程を経て作品として発露するものなのでしょうか。
「個性あふれる“私らしい”写真を撮る方法」著者の野寺治孝さんは写真表現において大事なこととして、撮影者の「感性」と「個性」を挙げています。本書では機材やテクニックも重要な要素としながら、心構えや考え方に重点を置いて、「私らしい写真」を撮るヒントとなる72のテーマについて語っています。
本記事では第2章「写真を深めていくための撮り方と考え方」より、写真表現における色彩の扱い方について解説します。
写真のインパクトと彩りの強さはあまり関係がない
写真について第三者へ感想を伝える際に「インパクトがある素晴らしい写真だ」と言うことがあります。逆に「あの写真はインパクトに欠ける」と否定的に言うこともあります。インパクトという言葉には”強烈、衝撃的”といった派手なイメージがあります。ですから昨今は”他者よりも目立つ”ことを意識した写真が多いのかもしれません。
写真はビジュアルですから色(モノクロも白黒という色)を意識的に念頭に置いて創作しなければなりません。例を挙げれば、蜷川実花の一連の花の作品には色彩の濃いものが多くあります。その色彩こそが彼女の最も特化した作風で、個性を表現している部分でもあるのです。北野武監督の初期の映画は”北野ブルー”と呼ばれている、青味がかったトーンで統一されています。「冷たさや寂しさを表現したかったのではないか」と私は想像しています。日本映画なのですがどこかフランス映画的な雰囲気が漂っているのはたぶん、その”北野ブルー”のせいだと思います。
今までに仕事柄たくさんの写真を見てきましたが、近年は”色彩が濃い”か”ハイキーで色彩が淡い”テイストの写真が多く見受けられます。作者に尋ねると「他者との差別化とインパクトを狙いました」と答えました。確かに見た瞬間はインパクトがあるかもしれませんが、ウケ狙い的なものを私は感じました。「これを表現したいから、こんな色彩にした」という作者の創作意図はあまり感じられませんでした。
写真は感性が大事ですから色彩の決定も作者の自由です。しかしそれは創作意図があって初めて作品として成り立つと私は思います。単なるウケ狙いでは本当の意味での”インパクトがある写真”とは言えません。インパクトがある写真とは色彩に関係なく、作者の想いが写った写真だと思います。そのような写真はいつまでも心に残ります。
音楽には激しいハードロックもあれば静かなバラードもあります。内容が優れていればどちらもインパクトがあります。写真も同じです。結論は”色彩の表現が写真ではなく、写真表現の1つが色彩”なのです。