他者との交流を目的としてタイムラインに写真を投稿することは、SNSの黎明期より長く行われてきました。それは自然と、SNSを写真作品の発表の場としても機能する形に進化させています。
「バズる!写真編集術」では写真を発表する場としてのSNSにおいて、より多くの人々に作品の魅力を届けるための考え方と調整方法を紹介。SNSで写真が拡散される現象についての考察をベースに、個々の作品で表現したいテーマに沿った調整の具体的な手順を作例のビフォー/アフターによって伝えています。
本記事ではTYPE C「ユニーク」より、夜の路地で営業している店舗の灯りを表現する調整方法について紹介します。
トレンド: #ぽつんと夜景
ありふれた夜の光景に非日常感を忍ばせる
Shooting Tips
この「ぽつんと夜景」と名付けたこのシリーズは、本作のような薄暗い路地でぽつんと明かりを灯しているお店などが被写体のメイン。周囲が暗いなか1軒だけお店が輝いていて、なおかつ霧や雨などで地面が濡れているという状態が理想の撮影条件となります。
Before
- 暗い部分のディテールをギリギリ見せることで立体感を出す
- 照明を明るくして暗闇に浮かび上がる「ぽつんと感」を強化する
- シャドウ部を青緑色、ハイライト部を橙色に近づけて補色効果で店舗の照明を際立たせる
田舎町のごくありふれた夜の光景を、まるで映画のワンシーンのような雰囲気に仕上げる、「ぽつんと夜景」と筆者が命名した編集手法の作品シリーズです。
明暗部の対比を強調させたうえで非現実的な色彩を加えることで独特の世界観をもたらし、鑑賞者にちょっとしたストーリーを想像させることがこの編集の狙い。ハリウッド映画でよく用いられるティールオレンジ(ティール=青緑色、オレンジ=橙色)と呼ばれる色彩表現から着想を得ており、補色効果によって引き立てたい被写体を効果的に見せることができます。
After
写真編集のポイント
トーンカーブとHSL/カラーを使用しティールオレンジの色彩を作ります。
基本補正: 基本補正で全体の明るさを整える
メインとなる手前の建屋の左側面の形が判別できるくらいに全体の明るさを微調整します。さらに撮影時は空にはまだ明るい青色が残っていましたが、次ステップ以降の調整を踏まえて青みを弱めておきます。
基本補正パネルのホワイトバランスをやや暖色方向にプラスして青みを弱めます。
白飛びと黒潰れができるだけ少なくなるようにハイライト、シャドウ、コントラストをそれぞれ弱める方向に調整しつつ、露光量と白レベルをプラスします。
明瞭度をプラスして全体のディテールを強調しておきます。
高度な補正: 薄暗い空間を演出し、明部に橙色を加える
トーンカーブで薄暗い空気感を作ったうえで、店舗の明かりが照らす部分に橙色系の暖色を加えていきます。色の編集にはトーンカーブのブルーチャンネルとHSL/カラーのオレンジ、イエローを使用します。
全体のトーンカーブで中間調からシャドウにかけて暗くします。完全な黒潰れを防ぐために左下端を上げ、光源の明るさをキープするためにハイライト部は暗くならないようにします。さらにブルーチャンネルのハイライト部を黄色に寄せます。
カラーパネルのオレンジの彩度を上げて橙色を濃くします。イエローは橙色に寄せるものの彩度を下げて橙色が濃くなりすぎないように調整します。
高度な補正: シャドウ部の寒色に青緑色を追加する
空や地面など暗い部分を青緑色に寄せ、一つ前の手順で整えた明部の橙色と対比をつけることで、ティールオレンジと呼ばれる色彩表現を施していきます。HSL/カラーのアクア、ブルー、パープルを使用して編集します。
カラーパネルのアクアの彩度と輝度をマイナスし、店舗上部の看板を薄く暗くします。ブルーで色相・彩度・輝度をマイナスして空と地面を薄暗い青緑色に寄せ、さらにパープルの色相をマイナスすることで宝くじの看板の色相を青緑色に寄せます。
マスク: ブラシ+線形グラデで照明を強調する
STEP2で暖色を加えたハイライト部をさらに明るくし、暗闇のなか明かりが煌々としているさまを強調します。ブラシツールでざっくりマスクした後に、減算の線形グラデーションで光源から離れるにつれて効果を弱めるようにします。
- ツールストリップ>マスク>ブラシ
- マスクパネル>減算>線形グラデーション
ブラシで明かりの部分を覆い、線形グラデーションを上に向かうほど効果が弱まるように重ねます。露光量をプラスすると同時にシャドウをマイナスすることで照明らしい明るさを表現できます。