写真撮影の道具たるカメラはその誕生以来、様々な進化を遂げてきました。それはカメラ自体が持つ機能だけでなく、被写体と直接相対するレンズも同様であり、長い歴史の中で、多くの交換レンズが生まれ、今なお撮影に用いられています。昨今、マウントアダプターの普及に伴って、最新のカメラで古いレンズを使う楽しみ方も広く知られるようになりました。
「オールドレンズ 銘玉セレクション」では、国内外のオールドレンズを外観写真や作例とともに紹介。そのレンズが開発された時代における新規性や立ち位置、技術的な背景など、オールドレンズにまつわる知識を深めることができる一冊となっています。
本記事では第4章「時代を駆け巡ったレンズメーカーの栄枯盛衰」より、「Objectif Cinema 85mm」の作例と解説を紹介します。
古典レンズの伝説的メーカー Hermagis Paris「Objectif Cinema 85mm」
エルマジーは1845年に創業されたフランスの光学メーカーだ。1980年代にペッツバールレンズの生産を始める。ペッツバールレンズの生産は順調だったようで1862年頃には1万本以上生産していたようである。1902年にはエイドスコープと呼ばれるソフトフォーカスレンズを発売した。このレンズは特に芸術的な表現としての写真の発展に影響を及ぼしたフランスを代表するレンズである。
特に19世紀の終わりから20世紀のはじめにかけて起こった「ピクトリアリズム(絵画主義写真)」という写真を絵画のようなアプローチで制作することで芸術に昇華しようとする運動の後押しもあり、ソフトフォーカスレンズに対する関心も高まり多くのレンズが制作された。フランスのレンズに共通するシャープなピント部と美しいフレアという美的感覚の源流はこのあたりにあると思われる。今回紹介するレンズはエルマジーのプロジェクター用レンズでペッツバール構成だ。