2000年代以降、デジタルカメラを内蔵する携帯端末が広く普及し、私たちの日常生活は「写真撮影」と共にあるといっても過言ではありません。その一方で、近年になってフィルム写真も再評価されており、「古くて新しい写真表現」を評価する価値観の中で、写真表現に新たな広がりが訪れています。
写真は「現像」作業によっていかようにでも変化します。その性質は、デジタルでもフィルムでも変わりません。しかし根本的な部分で、デジタル写真はフィルム写真とは似て非なるものです。そしてそれは、デジタルがアナログに近づく余地を残しているということでもあるのです。
書籍「デジタルでフィルムを再現したい」では、デジタル写真現像ソフト「Lightroom Classic」を用いて、デジタル写真をフィルムの風合いに近づけるテクニックを紹介しています。まったくのゼロからフィルムの色合いを再現するのは大変な作業ですので、本書で色調やトーンなど、各種パラメータコントロールの基本を身につけるのも一つの手でしょう。
本記事では第3章「シーン別フィルム再現 屋内編」より、クリアでシャープなデジタルの写りをあえてレトロに仕上げる方法を紹介します。
アンバー×フェードでレトロ調に
Before
作品タイトル:「丹頂金魚」
シチュエーション:人工光
After
Step0:仕上がりをイメージする
非常に光量の少ない状況での撮影です。フィルムは高い感度のものでもISO1600ということもあり、この写真のような暗い場所でラフにスナップしたフィルムの作例は少なめで、通常のフィルム再現より仕上がりをイメージするのが難しいでしょう。今回は暗部を浮かせることと、ハイライトをややアンバーにすることの2点を意識して編集していきます。
Step1:基本補正を行う
はじめにベースプリセットを適用してみましたが、光線状況が特殊なため、イメージとかけ離れてしまいました。
汎用性の高いベースプリセットではあるが、このような特殊な状況には必ずしも適さない。プリセットの適用を解除し、元の写真からマニュアルで編集する。
露光量:+1.29
シャドウ:-19
白レベル:-16
金魚の鱗などのディテールが見えるように白レベルを下げる。
Step2:ポイントカーブを調整する
ポイントカーブの調整で、画面の9割を占める黒を「濃いグレー」にします。
低照度の状況でネガフィルムを使うとシャドウが浮く(黒がグレーっぽくなる)傾向がある。ポイントカーブの暗部を持ち上げて、これを再現する。
Step3:効果を調整する
暗闇でスポットライト、という特殊なライティングにおけるフィルムの色転び感をイメージして、明暗別色補正を大胆に補正します。
明暗別色補正(シャドウ)
色相:121
彩度:36
明暗別色補正(ハイライト)
色相:38
彩度:27
シャドウはかなり濃いグリーン、ハイライトは濃いめにレッドを乗せて色転び感を演出する。
粒子をやや多めにして、低照度の条件下でフィルムを使ったときのようなザラつきを出す。
Step4:カラーを調整する
最後に金魚の頭の赤い部分をカラーミキサーでやや朱色寄りに調整します。
レッド・色相:+21
はっきりくっきりだった Before と比べ、フェードがかかり、褐色したような色合いに仕上がった。