デジタルカメラやスマートフォンでは、撮影した写真の記録形式として「JPEG」のほか「RAW」という設定項目を選べることがあります。RAWは一言でいえば「撮影画像の生データ」。データ容量が大きいかわりに、JPEGよりも多くの情報を持っている未圧縮の画像ファイルです。
RAWはほかの画像ファイルに比べて特殊で、専用のソフトが必要になるなど扱いも難しく、「すぐ見られなくて面倒くさそう」「難しそう」といった理由で、RAWでの記録を敬遠している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック」では風景写真をメインに、RAW現像ソフト「Lightroom」を使ったプロの現像テクニックを紹介。作例とした写真表現の方向性に「威風堂々」「爽快感」「幽玄」といったテーマを設定し、写真を調整する際の考え方や具体的な手順を学べます。
本記事では第3章「中級編」より、「周辺減光」をテーマにした作例の調整について解説します。
霧が立ち込めるブナの森にうっかり迷い込んでしまったときの畏怖を思い起こす
雨の日のブナ林はどこでも美しい。まして霧が立ち込めばなお一層幻想的になる。舗装道路から林道に少し入った場所での撮影だが、自分の周囲が霧に包まれると迷いの森に立ち入った気分になる。少しだけ意識が薄らぎ、〝現世〟と〝幽世〟の狭間を行ったり来たり……。はるか遠くで音が聞こえたような気がして不意に我に返り、迷いの森を抜け出すことができた、そんなイメージだ。
それを具現化するため、撮影時にブナの森の少し畏怖すら感じさせる印象的な部分だけを抜き取っている。さらに幻想的なイメージを得るため、色味と画像周辺部の明るさのコントロールがRAW現像のキーポイントとなる。
Before(現像処理前)
ブナ林の整然としたリズム感を淡々と捉えることで、現実味を軽減している。その際、ポジションを選びながら、奥行が感じられる位置で撮影している。RAW現像では”現世”と”幽世”との境界が曖昧に感じられるよう、色味と明るさを調整する。
After(RAW現像)
- まるで地の底から這い上がってきたかのようなブナの木のライン。奥行を意識しながらおどろおどろしく感じる部分だけを抜き出すように切り取ることで、このブナの森の奥深さを感じさせている。
- 森の中に立ち込める霧。この森から“畏怖”を感じさせるためには明るくしすぎないほうがよい。その一方で、暗すぎるとふわっと”意識がうすらいでいく”ようなイメージが得られにくくなる。その双方を満たす微妙な明るさがポイント。
- ブナの幹の形の不気味さを印象付けるためにはシャドウ部分の締まりが重要。この日は降雨ということもあり、幹が黒々と濡れていた。そのため、背景の霧から浮かびあがる印象を得ることができた。
Step1
寒色系の色味は不気味さや恐ろしさといった陰鬱なイメージが得られる。そこで画像全体に青みを加え、冷たさや冷酷さを印象付ける。
Step2
立ち込める霧の印象を強調することで、“現世”と“幽世”の狭間を行き来するような、ぼんやりとしたイメージが加わる。
Step3
色の調整は心理作戦。高い彩度は高揚した気分になり、低いと陰鬱な気分になる。極端な調整はせず、隠し味程度が心地よい。
Step4
構図で森の奥ゆきを意識しているが、視覚効果として森の“奥深さ”を印象付けたい。そのためには周辺減光効果を利用する。
Step5
周辺減光効果を加えると、相対的に画面全体が暗く感じてしまう。そこで、画面中央付近の明るさと全体の明るさを整える。