デジタルカメラやスマートフォンでは、撮影した写真の記録形式として「JPEG」のほか「RAW」という設定項目を選べることがあります。RAWは一言でいえば「撮影画像の生データ」。データ容量が大きいかわりに、JPEGよりも多くの情報を持っている未圧縮の画像ファイルです。
RAWはほかの画像ファイルに比べて特殊で、専用のソフトが必要になるなど扱いも難しく、「すぐ見られなくて面倒くさそう」「難しそう」といった理由で、RAWでの記録を敬遠している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック」では風景写真をメインに、RAW現像ソフト「Lightroom」を使ったプロの現像テクニックを紹介。作例とした写真表現の方向性に「威風堂々」「爽快感」「幽玄」といったテーマを設定し、写真を調整する際の考え方や具体的な手順を学べます。
本記事では第3章「中級編」より、「幻想」をテーマにした作例の調整について解説します。
自然がお膳立てした千載一遇の出合いを鮮やかに浮かび上がらせる
5月の爽やかな空を期待して出かけた八甲田の森。標高を上げるとまだ新緑には早く、空もどんよりとしていた。それでも冬から春へ季節が動くときの風景は面白く、気になる風景を見つけては撮影を進めていた。そんな折、頭上に大きな日暈(にちうん)を発見。その下には見事な環水平アークを伴っている。千載一遇のチャンス到来。この現象はスケールが大きいので手持ちの超広角ズームに切り換え、樹や残雪と調和する場所を急ぎ探して撮影を試みた。とはいえ、肉眼では鮮やかに見えている現象も、撮影をしてモニターで確認するとなかなか想定通りには写っていない。RAW現像の出番である。
Before(現像処理前)
自然が見せてくれた貴重な場面なので、超広角ズームを使って余すところなく画面内に取り入れることが必要。またいつ消えるかわからない現象なので素早く撮影することも大事。設定にこだわっている場合ではない。どんどん撮影してRAW現像で対処したい。
After(RAW現像)
- 日暈の中心に太陽がある。この場面でいえば、その部分だけ極端に明るいため、画面全体を適正露出にすると確実に太陽は白飛びする。強く白飛びさせてしまうとRAW現像時に階調を戻すことが難しくなるので、多少アンダー目に撮影しておくことがコツ。
- 画面のポイントは日暈と環水平アークなので、これが画面の中で印象に残りやすい位置、つまり画面の中央あたりに配置されると、構図はまとまりやすい。あまり画面の端に置かないようにしたい。
- 画面の上は空、下は残雪の森を少し見せているが、これは場所の雰囲気を語りつつ画面を窮屈に感じさせない工夫。とくに画面下部の要素は、八甲田らしさを少しでも伝えるためには必要な要素だ。
Step1
暗めに撮影した画像の明るさを適正に戻す作業をする。白飛びをさせないように撮影しているので、多少明るくしてもデータは残っているので、白飛びを気にする必要はない。
Step2
適正な明るさにしたことで、太陽を中心とした部分が白飛び気味になったので、「ハイライト」を使うことで階調をしっかりと取り戻す調整を行った。
Step3
逆光での撮影によって暗くなってしまった画面下部の調子を取り戻す作業を行う。この場合は「シャドウ」を使うことがポイント。
Step4
フラットな印象から抜け出すためメリハリを付けたい。そのためには「明瞭度」をプラス側に調整することがポイントである。
Step5
少し空の青がくすんだように見えるので、それに対処するために「HSL/カラー」の「カラー」から「ブルー」だけを調整する。