「確定申告」は、国税である所得税を自ら計算して、税務署に届け出るための手続きです。「税金を正しく納めるための仕組み」であり、知っておくと便利ですが、いまいちよくわからない、と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A」(桑原清幸・著)では、税金の基礎や収入の区分、帳簿の付け方から節税のコツまで、確定申告にまつわる素朴な疑問について、ケースごとの事例を交えながら、詳しく解説しています。
本記事では「青色申告の概要」についてのQ&Aを紹介します。
個人事業主になると今までと何か変わるの?
Q.
私はデザイナーです。個人としての収入が増えてきたので、税務署に開業届を出しました。個人事業主になると、今までと何か変わりますか?
A.
サラリーマンと違って、個人事業主はいろいろとやることが増えます。そのひとつが確定申告で、毎年行う必要があります。手間は増えますが、税制上のメリットもあるので、一緒にがんばりましょう。
まず、個人事業主は、毎年確定申告しなければなりません。クリエイターとしての「事業所得」を計算して申告します。「事業所得」とは、個人事業主としての1年間の「もうけ」です。
この「事業所得」に税金がかかるのです。事業所得を計算するためには、きちんと帳簿を付けて、1年間の収入と経費を把握・集計しなければなりません。この集計した表が「決算書」です。「決算書」はあらかじめ決められた用紙があり、そこに記入していきます。でも、心配しないでください。後で紹介する会計ソフトを使うと、自動的に集計してくれます。昔と違って、今は安くて便利な会計ソフトがあり、簡単に入力できます。
とはいえ、大変なことばかりではありません。個人事業主にはいろいろなメリットがあるのです。例えば、1年間集計したら赤字だったとしましょう。これまでのように「雑所得」で申告すると、赤字だったとしても、「所得=0円」とされ、何もメリットはありません。
一方で、個人事業主として「事業所得」で申告すると、この赤字は、勤務先の「給与所得」と相殺できて、全体の税金を安くできるのです。つまり、プラスの所得(=給与所得=黒字)を、マイナスの所得(=事業所得=赤字)で打ち消すことができるのです。これを税金用語で「損益通算」といいます。個人事業主ならではの節税方法ですので、ぜひ覚えておきましょう。
さらに、私は会社に勤めていないので「給与所得」がない、という方にもメリットがあります。下で説明する「青色申告」を選択すると、今年の赤字を、翌年から3年間繰り越すことができるのです。これを税金用語で「損失の繰越し」といいます。赤字(損失)を繰り越す、とは、どういう意味かというと、将来黒字になったら、その年の黒字と、繰り越した赤字を相殺することができるのです。つまり、将来儲かったときまで赤字をキープしておいて、将来の税金を安くすることができるのです。
よく「赤字だから確定申告しない」という方がいますが、実はすごくもったいない。将来税金が安くなるチャンスを捨ててしまっているのです。「食えないときこそ、確定申告」です。将来儲かったときに、「あのとき赤字でも確定申告しておいてよかったなあ」と思うはず。だって、黒字の年でも税金がゼロになる可能性があるのですから。特にクリエイターの仕事は、収入が不安定で、黒字になったり赤字になったり、波が大きいですよね。この「損失の繰越し」も、節税のための強い武器となりますので、ぜひ覚えておきましょう。
「青色申告」って何? 白色もあるそうだけど……。
Q.
今年からカメラマンとして独立開業したので、税務署に開業届を出しました。税務署から「青色申告」はどうしますか? と聞かれたのですが、何のことやらさっぱりわかりません。青いと何かいいことがあるのですか?
A.
カメラマンは経費が多くかかります。赤字のときに備えて、「青色申告」にするのがおすすめです。税務署に「青色申告」をやります、という申請書を出すことで、「私はきちんと帳簿を付けますので、その代わりに税金を安くしてください」と宣言したことになるのです。
「青色申告」を選んだ人は、きちんと帳簿を付けないといけませんが、税金が安くなるメリットが用意されています。これを選ばなかった人は「白色申告」となり、何のメリットも受けられません。
この「青色申告」は、戦後、まだアメリカに占領されていた昭和25年に、日本人に正しく確定申告をしてもらうために導入された制度です。何で「青色」なの?という話ですが、当時、日本の税金のしくみを作ったシャウプさんという学者が、何かわかりやすい名前がないかと考えていたそうです。日本人にとって、「青」には澄んだ空のイメージがあると知ったシャウプさんが、正直に隠し事をしない真面目なイメージに合うだろうということで「青色」にした、といわれています。用紙の色とは関係なくて、実際の青色申告用の用紙は緑色です。
あなたが、この「青色申告」を申請したいときは、税務署に「所得税の青色申告承認申請書」という書類を出します。1枚だけの簡単な書類なので、すぐに書けます。個人事業主として、開業届を出すときに一緒に税務署に出してしまいましょう。開業の日から2カ月以内に提出しないと、その年は青色申告ができなくなってしまいます。ですので、開業届と一緒に出すようにしましょう。
この申請書は、開業のときに1回出せばOKで、その後毎年出す必要はありません。申請書を出しても、税務署から「承認しました」という連絡はもらえないのですが、そのままで大丈夫です。とにかくこの申請書を税務署に出しておけば、開業した年から青色申告をすることができます。
なお、過去に開業届を出していて、白色申告となっている方が、青色申告に変えたいという場合は、改めてこの申請書を出さないといけません。その年の3月15日までに提出しておかないと手遅れになり、また来年出してくださいね、となってしまうので注意が必要です。「今年からきちんと帳簿を付けて、青色申告をするぞ!」という方は、早めに税務署に提出しておきましょう。
申請書1枚でスタートできる「青色申告」ですが、きちんと帳簿を付けていなかったり、申告書を出し忘れて3月15日の提出期限を過ぎてしまったりすると、せっかくの青色申告が取消されてしまいますので、気を付けてくださいね。
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