駆け出しクリエイターのための お金と確定申告Q&A
第6回

「青色申告」って何?

「確定申告」は、国税である所得税を自ら計算して、税務署に届け出るための手続きです。「税金を正しく納めるための仕組み」であり、知っておくと便利ですが、いまいちよくわからない、と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A」(桑原清幸・著)では、税金の基礎や収入の区分、帳簿の付け方から節税のコツまで、確定申告にまつわる素朴な疑問について、ケースごとの事例を交えながら、詳しく解説しています。

本記事では「青色申告の概要」についてのQ&Aを紹介します。

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個人事業主になると今までと何か変わるの?

Q.
私はデザイナーです。個人としての収入が増えてきたので、税務署に開業届を出しました。個人事業主になると、今までと何か変わりますか?

A.
サラリーマンと違って、個人事業主はいろいろとやることが増えます。そのひとつが確定申告で、毎年行う必要があります。手間は増えますが、税制上のメリットもあるので、一緒にがんばりましょう。

まず、個人事業主は、毎年確定申告しなければなりません。クリエイターとしての「事業所得」を計算して申告します。「事業所得」とは、個人事業主としての1年間の「もうけ」です。

この「事業所得」に税金がかかるのです。事業所得を計算するためには、きちんと帳簿を付けて、1年間の収入と経費を把握・集計しなければなりません。この集計した表が「決算書」です。「決算書」はあらかじめ決められた用紙があり、そこに記入していきます。でも、心配しないでください。後で紹介する会計ソフトを使うと、自動的に集計してくれます。昔と違って、今は安くて便利な会計ソフトがあり、簡単に入力できます。

とはいえ、大変なことばかりではありません。個人事業主にはいろいろなメリットがあるのです。例えば、1年間集計したら赤字だったとしましょう。これまでのように「雑所得」で申告すると、赤字だったとしても、「所得=0円」とされ、何もメリットはありません。

一方で、個人事業主として「事業所得」で申告すると、この赤字は、勤務先の「給与所得」と相殺できて、全体の税金を安くできるのです。つまり、プラスの所得(=給与所得=黒字)を、マイナスの所得(=事業所得=赤字)で打ち消すことができるのです。これを税金用語で「損益通算」といいます。個人事業主ならではの節税方法ですので、ぜひ覚えておきましょう。

さらに、私は会社に勤めていないので「給与所得」がない、という方にもメリットがあります。下で説明する「青色申告」を選択すると、今年の赤字を、翌年から3年間繰り越すことができるのです。これを税金用語で「損失の繰越し」といいます。赤字(損失)を繰り越す、とは、どういう意味かというと、将来黒字になったら、その年の黒字と、繰り越した赤字を相殺することができるのです。つまり、将来儲かったときまで赤字をキープしておいて、将来の税金を安くすることができるのです。

よく「赤字だから確定申告しない」という方がいますが、実はすごくもったいない。将来税金が安くなるチャンスを捨ててしまっているのです。「食えないときこそ、確定申告」です。将来儲かったときに、「あのとき赤字でも確定申告しておいてよかったなあ」と思うはず。だって、黒字の年でも税金がゼロになる可能性があるのですから。特にクリエイターの仕事は、収入が不安定で、黒字になったり赤字になったり、波が大きいですよね。この「損失の繰越し」も、節税のための強い武器となりますので、ぜひ覚えておきましょう。

「青色申告」って何? 白色もあるそうだけど……。

Q.
今年からカメラマンとして独立開業したので、税務署に開業届を出しました。税務署から「青色申告」はどうしますか? と聞かれたのですが、何のことやらさっぱりわかりません。青いと何かいいことがあるのですか?

A.
カメラマンは経費が多くかかります。赤字のときに備えて、「青色申告」にするのがおすすめです。税務署に「青色申告」をやります、という申請書を出すことで、「私はきちんと帳簿を付けますので、その代わりに税金を安くしてください」と宣言したことになるのです。

「青色申告」を選んだ人は、きちんと帳簿を付けないといけませんが、税金が安くなるメリットが用意されています。これを選ばなかった人は「白色申告」となり、何のメリットも受けられません。

この「青色申告」は、戦後、まだアメリカに占領されていた昭和25年に、日本人に正しく確定申告をしてもらうために導入された制度です。何で「青色」なの?という話ですが、当時、日本の税金のしくみを作ったシャウプさんという学者が、何かわかりやすい名前がないかと考えていたそうです。日本人にとって、「青」には澄んだ空のイメージがあると知ったシャウプさんが、正直に隠し事をしない真面目なイメージに合うだろうということで「青色」にした、といわれています。用紙の色とは関係なくて、実際の青色申告用の用紙は緑色です。

あなたが、この「青色申告」を申請したいときは、税務署に「所得税の青色申告承認申請書」という書類を出します。1枚だけの簡単な書類なので、すぐに書けます。個人事業主として、開業届を出すときに一緒に税務署に出してしまいましょう。開業の日から2カ月以内に提出しないと、その年は青色申告ができなくなってしまいます。ですので、開業届と一緒に出すようにしましょう。

この申請書は、開業のときに1回出せばOKで、その後毎年出す必要はありません。申請書を出しても、税務署から「承認しました」という連絡はもらえないのですが、そのままで大丈夫です。とにかくこの申請書を税務署に出しておけば、開業した年から青色申告をすることができます。

なお、過去に開業届を出していて、白色申告となっている方が、青色申告に変えたいという場合は、改めてこの申請書を出さないといけません。その年の3月15日までに提出しておかないと手遅れになり、また来年出してくださいね、となってしまうので注意が必要です。「今年からきちんと帳簿を付けて、青色申告をするぞ!」という方は、早めに税務署に提出しておきましょう。

申請書1枚でスタートできる「青色申告」ですが、きちんと帳簿を付けていなかったり、申告書を出し忘れて3月15日の提出期限を過ぎてしまったりすると、せっかくの青色申告が取消されてしまいますので、気を付けてくださいね。

 


<玄光社の本>

 

<著者の新刊>

本書の著者・桑原清幸さんの新刊「駆け出しクリエイターのためのお金と独立準備Q&A」が10月29日に発売されます。本書と併せて、独立後の仕事とお金の管理に、是非お役立てください。


著者プロフィール

桑原清幸

(くわばら・きよゆき)
1972年群馬県渋川市生まれ。桑原清幸会計事務所代表。税理士・公認会計士。上智大学在学中に公認会計士試験に合格。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。大手会計事務所で20年間勤務したのち、独立開業。会計事務所とアートを融合したギャラリーKKAG(Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery)を設立。植田正治やソール・ライターなど写真を中心とした展覧会の企画制作を手掛ける株式会社コンタクトの財務担当取締役(CFO)を務める。暗室バーの税務顧問も務めるなど、会計専門家の立場からアートビジネスの発展を支えている。趣味は、ライカカメラ収集・写真の暗室作業の他、秘湯スタンプ集め、日本酒立ち飲み屋巡りなど。上智大学経済学部非常勤講師。

ウェブサイト:kkag.jp

書籍(玄光社):
駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A
駆け出しクリエイターのためのお金と独立準備Q&A

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