プラモデルの既成概念をぶち壊す、ミニチュアゲーム「ウォーハンマー」の世界

幼少の頃、漫画やアニメに登場するキャラクターや、実在するメカのプラモデルを組み立て、ほかのプラモデルやフィギュアと戦わせるごっこ遊び、いわゆる「ブンドド」の経験は、多くの読者の思い出にある風景ではないでしょうか。

ミニチュア模型を用いて遊ぶ「ミニチュアゲーム」というボードゲームの一形態があります(テーブルトップゲーム)。これはゲーム盤となるジオラマ上にミニチュア模型の軍隊を展開し、ルールに則って動かし、勝敗を決するもので、言ってみればブンドドにルールを設定し、愛着あるフィギュアに「ルール上の駒」という機能を与えて「大人がまじめに遊ぶ」楽しみ方の一つです。

英国ゲームズワークショップ社が製作と販売を行っている「ウォーハンマー」シリーズは、世界的に人気のある代表的なミニチュアゲーム。「ホビージャパンエクストラ 2018 Spring」ではウォーハンマーシリーズを特集しており、ウォーハンマーの世界観からキャラクターキットの紹介、塗装の仕方から遊び方、ゲームズワークショップ本社取材レポートなど、模型として、そしてミニチュアゲームとしてのウォーハンマー入門にあたって必要な情報が詰まった一冊となっています。

本記事ではプラモデルとしてのウォーハンマーを紹介する特集の冒頭部分に加えて、多種多様なキャラクターやメカの中のごく一部をご紹介します。

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ホビージャパンエクストラ 2018 Spring

 

やっと邂逅した異次元のプラモデル

肉や骨、布、一体成型された人や獣など今まで見たことが無いパーツがギュギュっと詰め込まれたランナー。自分の目を思わず疑ってしまう光景に、さらにニッパーを入れて肉や骨を解放していく感覚はこれまでのプラモデルにあったでしょうか? そしてパーツがあるべき場所に帰っていくようにすっと納まっていく組み味。『ウォーハンマー』のプラモデルはおよそ僕たちがプラモデルとよんできた物とはまったくの別の文脈で作られているようです。一体どのような物なのか? 魅力的なキットを見ながら体感していきましょう。

ゲームの駒ではなく、「プラモデル」としてウォーハンマーを見た時、その異常さは一目瞭然だ。ランナーにつけられた台形のテーパーは、完全に上下二面の金型で作られたということを力強く主張し、うねうねと曲がった有機的な配置は、我々のよく知るプラモデルの形とは似ても似つかない。部品自体を見ても、何がどう組み合わさると箱の写真と同じ物体が完成するのか、皆目見当がつかない。箱を開けた瞬間から、国産のキットとは大きく異なる匂いがするのだ。

パーツひとつひとつを見ても、偏執狂的に入れられたモールドが目を引く。パーツ表面に隙間や空間が空くこと自体を恐れるかのようにみっしりと彫刻が入れられ、しかもそれぞれに意味やデザインを持たされている。尖っている部分は指に刺さりそうなほど鋭く、また腐っている部分は今にも崩れ落ちそうなシズル感がある。部品それ自体に表現があり、主張がある。

そんな部品を組み立てていけば、さらに驚愕することになる。予想もつかなかった形で奇妙な形状のパーツが組み合わさる様は、プラモデルというより立体的なパズルを解いている感覚に近い。しかも部品同士はバチピタで噛み合い、平面的なパーツからは想像できないほど立体的な形が組み上がる。抜きの方向と組み上がった時に外に向く方向が完全に制御され、立体になった時にまったく破綻がない。この組み立ての感覚は、非常に快楽性が高い。ここにきて、我々は初めて「ゲームズワークショップはいかなる方向から立体物を切り刻み、組み立ての際にどのような体験を提供しようとしていたのか」を思い知る。全ては彼らの掌の上だったのである。

ここからは、そんなウォーハンマーのミニチュアの中から特に快楽性が高いものを選抜、プラモデルとしての妙味を紹介する。メカやフィギュア、クリーチャーに込められたディテールや、霊体や炎のような「エフェクトをパーツ化する」という試みまで、幅広いラインナップから選りすぐられた表現を楽しんでほしい。

科学技術とファンタジーが融合した世界を彩るミニチュアたち

まずはSF系のデザインが特徴の『ウォーハンマー40,000』のミニチュアを見ていきましょう。大きなサイズのもの、メカニカルな物、宇宙生命体とデザインの方向性は多様で、まさに全宇宙での戦いという感じがヒシヒシと伝わってきます! 早速見て行きましょう!

翼とマッスル!!誰もがトリコになる「赤きマグヌス」

筋肉モリモリの体躯にエングレービングが施された甲冑、長い髪に羽毛のフサフサ感が表現された翼と、各部で切り替えられた派手な彫刻はまさにウォーハンマーの醍醐味。翼のおかげで組み上がった時のサイズもかなり大きい。メリハリの効いた造形面を味わうにはうってつけのキットだ。

赤きマグヌス 約20cm プラキット 18400円、発売中 発売元/ゲームズワークショップ
パンパンに張り詰めた大胸筋。肩の三角筋まで一体で成型されている
僧帽筋、胸鎖乳突筋の彫刻も見事だ。抜き方向が金型に対して垂直なのにも注目
腹部は中央から左右割り。分割線が臍を逃しているあたり芸がこまかい
上腕部と肩部は筋肉に沿った分割だ
組み上がると堂々たる肉体美が顕現。この上から鎧をかぶせるが、もちろんこのまま完成させることもできる
仏像でいう「邪鬼」の位置で踏んづけられているドレッドノート。硬質な金属の塊らしいエッジが立っており、質感の違いを主張している
日本のキットでは珍しい、可愛げゼロのおっさん顔。微妙に口の角度が異なるという差分がある
頭髪パーツは縦に5分割された部品を積層して組み立てる。合わせ目を目立たせずボリュームを出せる設計だ

鎧、マント、毛皮と装飾がゴージャスでディテールもピカイチ!「キャプテン・ジェネラル、トラーヤン・ヴァロリス」

鎧の硬質な金属、顔の人肌、そしてマントの布、肩に下がる獣の毛皮とあらゆる表現が詰まったシャープなパーツにまず驚き、10cmに凝縮するにはあまりにもシンプルなパーツ構成に驚き、組んでラインが繋がりピッタリ嵌まることに驚く。人だからこそのパーツ表現の多様さを存分に楽しんで、そして”塗りのシステム”シタデルペイントシステムを試すにはこれ以上のアイテムはないだろう。

キャプテン・ジェネラル、トラーヤン・ヴァロリス 6cm プラキット 5200円、発売中 発売元/ゲームズワークショップ

腰の後ろ側のパンツ部分とマントが一体となり、右のふくらはぎとも接着。パーツ段階ではどこの部分を担っているかがわからないことも、接着するとなるほどここかと唸らされる
パッケージはキャラメル式で開封するとプラスチックのトレーが出てくる。2つのランナーをうまく収めている。説明書はカラーでわかりやすい

豊富なアクセサリーを有するメディック「プライマリス・アポシカリー」

戦団の医術官。倒れたプライマリス・スペースマリーンが足元にいるのも印象的。バックパックに無数に装着された医療器具は選択式となっており、お好みのものを装着可能。各装備品のディテールもキレッキレだ!

プライマリス・アポシカリー 約6cm プラキット 5200円、発売中 発売元/ゲームズワークショップ

戦場で倒れたプライマリス・スペースマリーン。瓦礫などもモールドされており、過酷な戦場で倒れた姿を緻密に再現している。このパーツを付属のベースに貼るだけでも情景が完成してしまう
超精密な医療器具のパーツ。こちらは選択式

こんな巨大メカもいます!「エルダー レイスナイト」

剣やシールド、キャノンも装備可能な巨大二足歩行メカ。ゲームズワークショップらしいデザインで、腕部や脚部は有機的なディテールがちらほら見える。格子状のフィンのディテールは非常にシャープ。また各パーツの先端の鋭さは国内キットではなかなか無いもので、非常に鋭い。

エルダー レイスナイト 約20cm プラキット 11400円、発売中 発売元/ゲームズワークショップ
関節部分は、自分の好きなところで接着してポーズを決めることができるフリーポーズ仕様
武装は非常に豊富。1体で様々な組み合わせが可能なのも『ウォーハンマー』ミニチュアの魅力

4種ものバリエーションを作ることができるタンク!

生っぽいアイテムや複雑なアイテムが多いウォーハンマーにだって、カッチカチのAFVが存在する。キャタピラに砲塔、まさに作り慣れたアイテムなら、安心して挑むことができるだろう。オプションがとても多いのが特徴で砲塔の主砲は4種類もあるし、車体の前方や左右についた銃がたくさんの形状から選ぶことができる。固定式キャタピラのつき位置を示すためにはまるパーツ番号が内部に刻印されているのと、キャタピラの裏側にもパーツ番号が刻んであるのも面白いところだ

アストラ・ミリタルム、レマン=ラス・バトルタンク/レマン=ラス・ヴァンキッシャー/レマン=ラス・エクスターミネイター/レマン=ラス・エラディケイター 約15cm プラキット 7000円、発売中 発売元/ゲームズワークショップ
オプションが豊富。いかにもな主砲のほかに、高射砲のような連装のタイプまで。また車長のミニチュアは選択式。プレイバリュー多めだ
車体側面を見るとわかるが、全体的にモールド多めで、ウェザリングのしがいもあり、汚し映えしそうだ

一体これは何?プラモです「ティラニッド・ティラノサイト」

恐るべき勢力・ティラニッドが惑星に突入してくる時の物体。写真は殻が展開された状態で、こちらは閉じた状態にも組むことができる。ティラニッド・スポア・マインズも付属する。

ティラニッド・ティラノサイト 約16cm プラキット 7000円、発売中 発売元/ゲームズワークショップ
殻の裏にもびっしりとモールドが……チラリと見える部分にもこだわりあり! とにかく有機的なモールドがうねうねと存在する
完全に不気味!触手やら中にはうねうねしたモールドやらでもう大変。これが本当にプラモデルなのかと疑いたくなる

 


<ホビージャパンの本>

ホビージャパンエクストラ 2018 Spring

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