写真が上達するキーワード事典
第10回

映える一枚だけでは不十分?より深くテーマを伝える「組写真」の手法

多くの人がスマートフォンを手にするようになり、日常的に写真を撮るようになりました。近年のスマホはアプリの機能も充実しており、特に写真撮影の知識がなくても、ひとまず使っていれば使い方は覚えられるものです。

ただ、TLで見かけたインフルエンサーの写真のような、目を惹く写真を撮りたい!となると、用語の意味を知る必要が出てきます。

写真が上達するキーワード事典」では、写真撮影にまつわる100の用語を個別に解説。本格的に写真を学ぶにあたって頻出する用語について理解を深めることができます。

本記事では「組写真」について解説します。

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写真が上達するキーワード事典

表現意図の伝え方や撮り方が単写真とは異なる

組写真とは、複数の写真を組み合わせて構成される写真表現の形式です。1枚で見せる単写真はそれ単体で完結するため、ほかの写真との関連性は基本的に必要ありません。鑑賞者はその1枚に集中でき、前後の時間など想像力をかき立てられます。2枚以上のまとまりで見せる組写真の場合は、表現意図をより詳しく伝えることができます。前後の時間の関係などをストーリー的に表現することも可能です。

単写真として撮影したものを組写真として構成するとき、主題(=テーマ)を軸に共通するものを選んでいくことで表現意図が明確になり伝わりやすくなります。とはいえ単写真と組写真とでは撮り方が違ってきます。組写真を構成する写真は、テーマを形にするための素材と考えると良いでしょう。単写真として撮影したものがその素材として当てはまることもありますが、最初からそれに適した撮り方をしたほうが効率的です。あらかじめテーマを決めておくことで、何をモチーフにするのか、どこで撮影すれば良いのかなどといったことが明確になり、それに沿って撮り進めていくことができます。

被写体やシーン別のジャンル写真は、1枚でその良さを感じさせるのは難しく、複数の写真を組み合わせることで訴求力が高まります。それらの被写体に興味がない人に対してもその魅力を伝えられるなど効果的です。今後も好きなジャンルを撮り続けていきたいのであれば、組写真に取り組んで作品をまとめるのも良いでしょう。

組写真ではどのような写真を選んで組み合わせるのかで作品の方向性が大きく変わります。同じテーマでも何通りもの表現が可能になります。写真の絵づらに引っ張られたり、撮影時の苦労などテーマとは関係のない感情が邪魔をしたりすると伝わりにくくなるので、それらを判断する客観的な目も組写真にまとめるときには必要です。

どうしても入れたい1枚など撮影者の思いの強い写真は、鑑賞者にとっては邪魔な1枚に感じられることがあります。あと1枚が足りていないなど、情報不足で伝え切れていないケースも。1枚1枚がテーマを伝えるための役割を担うため、必要なものが欠けても、余分なものが入っていても不十分なのです。

単写真

単写真はほかの写真との関連性を考えずに撮り進めることができます。組写真はどのような写真を組み合わせて表現するのか、撮影のときから意識することが大切です。テーマに合った写真の条件をあらかじめ決めておくことで、被写体や撮影場所など必要な要素を明確にできます。

組写真

組写真はチームワークが大切

スポーツに例えると、単写真は個人競技、組写真は団体競技といえるでしょう。単写真をただ集めるだけでは組写真としては不十分です。

強い選手を集めるだけでは強いチームにはならないのと同じで、組写真の場合も1枚1枚の役割分担や連携などチームとしてのまとまりが必要になります。どのようなチームにするのか、その指針となるのがテーマです。

単写真と組写真はアプローチが違う

左の写真はシンプルな絵づらですが、朝の光のまぶしい感じを伝えたくて選んだ1枚です。右の4枚は観光を楽しむ人たちの様子を伝えるために、いろいろなシーンを撮影した中から選んで組み合わせました。どれも賑やかな絵づらなのですが、それぞれ1枚だけだと伝えたい情報が不足気味です。ほかの写真と組み合わせることで足りないものを補い合い、表現に広がりや深みが出ました。


写真が上達するキーワード事典

著者プロフィール

岡嶋 和幸

岡嶋和幸(おかじま かずゆき)

1967年福岡市生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。作品発表のほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集「ディングル」「風と土」のほか著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」「潮彩」「学校へ行こう! ミャンマー・インレー湖の子どもたち」「九十九里」「風と土」「海のほとり」などがある。

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