撮影した写真を他者に見せる目的は様々です。ただ記録として見せるならば「撮って出し」でも十分ですが、そこに撮影者が持った感情や、直接関係ないなんらかの意味合いを乗せたいと考えたとき、それはたとえ最終的に何も手を加えなかったとしても、表現を試みたことにほかなりません。
画面の色合いは写真や映像の印象を一変させます。例えば映画の画面をよく見てみると、シーンによっては現実の風景とはかけ離れた色合いで表現されていることに気づくでしょう。こうした映画的なカラー表現は、しばしば写真の調整でも用いられます。
「シネマティック・フォトの撮り方」では、写真に映画的な演出を加えることを大前提に、撮影時に留意すべきポイントや編集方法、鑑賞する際の心構えも解説。著者の上田晃司さんは写真と映像の両方で作品の撮影を続けており、静止画の画作り解説を主たるテーマに据えた本書の製作においても、映像製作の考え方を採用しています。
本記事ではChapter2「シネマティック・フォトの撮り方」より、荒廃する建造物をイメージした作例を紹介します。
朽ちていく都市の不気味さを切り取る
CINEMATIC IMAGE
香港の廃墟手前のビル群。辛うじてまだ人が住んでいるが、立ち退きが進み徐々に荒廃が増す。背景の新しいマンションやビル群と比べると、余計にその不気味さが際立つ。朽ちていくビルを香港映画のように撮影した。
COMPOSITION:画面いっぱいにビルを入れて密度をアップする
シネマティックなイメージで切り取るには、被写体全部を写すのではなく、画面いっぱいに入れると良い。できるだけ画角を狭めることで、密集感が表現しやすくなる。また、この写真では左下に電車が走っているが、全容を入れると主張が散漫になるので、動きのある被写体として廃墟感のアクセントになるよう取り入れている。車両が主役にならないよう、一部だけを切り取ることで、荒廃するビルと成長するビルに意識が向く。
別の場所だが、さらに画面いっぱいに切り取った例。全容を入れるより世界観が生まれる。
迫力を出すために、全部を入れずに列車の一部を切り取る勇気も重要だ。
LIGHT:廃墟ビル群は曇天や雨が似合う
廃墟や荒廃したビル群などは天気の良い日に撮影しても面白みがない。どんよりとした曇りや雨のほうがシネマティックなイメージが強調される。特に曇りの日は雲の立体感が出るように露出を決めるとSFのような世界観が生まれる。少し露出をアンダー気味(-1EVくらい)に撮影すると荒廃感がより強調される。
CINEMATIC RETOUCH:ハイライトとシャドウにシアングリーンをのせる
Photoshopにあらかじめ 入っているLUTの「Kodak 5205 Fuji 3510(by Adobe).cube」を使用した。主にビルのディテールやシャドウとハイライト部分にシアングリーンが入るLUTだ。シャドウだけでなく、ハイライトにもシアングリーンやブルーグリーン系が入ると陰鬱でクールな印象になる。香港映画のワンシーンのような色感で表現できた。
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