かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、現在においては「オールドレンズ」と呼ばれ広く親しまれています。
レンズは「写真うつり」の多くの部分を決める要素ですが、オールドレンズの世界においては、必ずしも画面のすみずみまではっきり、くっきり写ることだけが良しとされるわけでもありません。レトロな外観と個性的な写りも人気の一因です。
シリーズ10冊目となる「オールドレンズ・ライフ 2020-2021」では、現行のデジタルカメラで沈胴レンズを使う「沈胴レンズクロニクル」、あえてフレアやゴーストを発生させるレンズを使う「Flare Ghost Collection」などの特集を掲載。各レンズの特徴から装着前に押さえるべき注意点、実写作例など、レンズ沼のほとりに立つ人々の背中を押す内容となっています。
本記事では「OLL Pick Up」より、「Kistar 40mm F2.4」の作例を紹介します。
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読者諸氏はパンケーキレンズにどんなイメージを抱いているだろうか。薄型の鏡胴で手軽なスナップに最適、とサイズ感については好意的に捉えている人が大変だろう。しかし、描写面はどうか。コンパクトなのに堅実に写るのがパンケーキレンズの売りだが、正直なところ、おもしろみのある描写とは言い難い。そんなパンケーキレンズの常識を覆したのが、このキスター40ミリF2.4だ。
このパンケーキレンズは開放が甘い。自然な甘さ、というレベルではなく、かなり派手に滲む。勘のいい人なら、本レンズが開放F2.8ではなく、F2.4というところに何かを感じたことだろう。あえて大口径化することで甘い描写を引出ひているわけだ。
特に注目したのは、ハイライトが滲む様だ。オールドレンズマニアならばソンベルチオあたりを想起するにちがいない。とにかく危険な香りのする開放描写なのだ。
F4まで絞ると描写が一変、広い範囲でシャープな描き方になる。開放とF4まで絞った時の描写のギャップが強烈だ。絞りリングをスイッチ代わりにして、甘さとシャープさを切り替えられる。
この手の緩急の激しいレンズは球面ズミルックス(初期のズミルックス35ミリF1.4)が有名だ。球面ズミを「オールドレンズ界のジキルとハイド」としばしば読むが、さながらキスター40ミリF2.4は、パンケーキレンズ界のジキルとハイドである。
木下光学研究所の木スターシリーズは、これまでKCYマウント(いわゆるヤシカ/コンタックス互換マウント)を採用していた。本レンズはKCYマウントではなく、ソニーEマウントと富士フイルムXマウントを採用している。薄さが命のパンケーキレンズだけあって、ミラーレス機にマウントアダプター不要で装着できるネイティブマウントを選択してきた。
また、ドーム型フード(いわゆるフジツボフード)を標準付属している点は、オールドレンズファンの琴線に触れることだろう。