光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング
第5回

オフカメラ・ストロボライティング「フィルター」で背景色と肌色を操ろう

人物写真を撮る際に重要なテクニックは数多ありますが、その中でも特に重要度の高い技術は「光を読む力」でしょう。頭の中にあるイメージ通りに作品を撮影するにあたり、光を読む力を鍛えることは、機材選び以上に重要な要素です。

撮影時の光源として使える最も身近な光源機材は内蔵もしくはクリップオンストロボですが、作品づくりを念頭に撮影へ臨むならば、単に直射、バウンスするばかりでなく、ときにはストロボ自体を使わない、あるいは、そこまではせずとも光源の扱いを一工夫する必要も出てくることでしょう。

光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング」では、カメラから離れた位置にストロボを配置するライティングテクニックを中心に、オフカメラライティングの基礎知識から多灯ライティング、ストロボ撮影時の構図の考え方など、「光を読む」技術を多数紹介しています。

本記事では、Chapter3「オフカメラ・ストロボライティングに必要な8つのアイテム」より、発光色を変えるフィルターの活用方法を一部抜粋して紹介します。

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光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング

フィルター:光の量と色を変える

フィルターの用途を知って必要なものを用意しよう!私がよく使うフィルターには、おもに4つの用途があります。

  1. NDフィルター:日中明るすぎるときに、カメラに取り込む光の量を減らすために使います。
  2. オレンジフィルター:夜景ポートレートなどで画面全体の色温度設定をを3000Kにしたときに、被写体の色を通常の色に戻すためにオレンジフィルターをストロボにつけます。
  3. カスタムホワイトバランス:カラーシフトで背景の色を大胆に変えたいときに。
  4. カラーフィルター:レイヤ-4で壁に色をつけたいときや、レイヤー2や3のエッジライトに色を入れたいときに使います。

アクセサリーと同じで、ストロボの前に何かしらつけるとパワーが下がります。フィルターも同様に減光するので、ストロボのパワーを上げる必要があります。

ハイスピードシンクロに対応してないストロボにはNDフィルターを用意

日中に撮影するときは、「明るすぎる」ことが問題になります。絞り開放で背景をぼかして撮りたいときに白飛びしてしまったり、日中シンクロでは太陽と戦うためのストロボのパワーが足りなかったりします。

NDフィルターは、レンズに暗いフィルターをつけることで、写真の色に影響を与えずにカメラに入る光を減らせるアイテムです。日中でシャッタースピードが1/250秒以上になる環境だと、ハイスピードシンクロの領域に入ってきます。カメラがハイスピードシンクロに対応していない場合は、NDフィルターを使って、擬似的に暗い環境を作ることで、シンクロスピードより遅いシャッタースピードを得ることができます。日中の撮影が多いなら、NDフィルターは必須です!

Q. NDフィルターは何がオススメですか?
A. 可変式のNDフィルターがあると便利です。

NDフィルターは、ND4、ND8など段数の違いごとに用意されているものが多いのですが、それだと減光したい度合いによって複数枚揃えなければなりません。そこで便利なのが、可変式のNDフィルターです。

今使っているNisiの「Pro Nano ND-VARIO エンハンスド可変NDフィルター」は、フィルターを回すと 1.5~5段の減光ができるアイテムです。ただ、いちばん暗いところと、いちばん明るいところがどこだかわからないのが難点。カチ、カチと段数ごとにダイヤル式になっていれば使いやすいのにな、と思っています。

NDなし

レンズに装着した可変式NDフィルター。NDフィルターを回しながら暗いところに合わせます。同じ露出の状態(上)を2.7段も減光でき(下)、夜のような状態を作り出すこともできます。

NDあり

被写体をきれいな肌色に戻すためにストロボにオレンジフィルターをつける

ストロボに装着するフィルターの中で私がいちばんよく使うのが、ROGUEのオレンジフィルターです! 夜景ポートレートでは、ナトリウム光など暖色系の環境光が多いため、昼光と同じく5600Kくらいの色温度で撮ると、かなり暖色系の色合いになります。そこでカメラの色温度を3000Kくらいにして、全体を青っぽく仕上げます。ストロボ光は5700Kくらいですが、全体の色温度を下げることでストロボ光も青色に引っ張られます。その分光の当たった被写体の色を戻すために暖色系のオレンジフィルターをつけて色温度を上げます。このとき、ストロボのパワーがだいたい1段分くらい下がるので、パワーを1段分上げます。

オレンジフィルターを使う主なシーン

  • 夜景ポートレートで都会的な色にしたいとき
  • 雨ポートレートで幻想的に仕上げたいとき
  • 遠くからバックライトを入れて空気感を青っぽくしたいとき
  • 星空ポートレート

フィルターあり

フィルターなし

グリーンフィルターでマゼンタのカスタムホワイトバランスを作る

カラーシフトとは、ホワイトバランスのグレーの基準をずらすことで、大胆に色味を変える方法です。基準となった色と反対色の色(補色)になります。カスタムホワイトバランスを登録しておくと、すぐに呼び出すことができるので、私はグリーンフィルターをストロボにつけて撮影して登録し、マゼンタ色の空にしたいときに使います。一度登録すれば呼び出して使うことができます! ウェディングなどでよく使う方法です。

白いものがないときは、新婦のウェディングドレスをぼかして撮ることもあります。

カスタムWBあり

キヤノン EOS-1D X /シグマ 12-24mm F4 DG HSM / 12mm /マニュアル露出(F4.5、1/100秒)/ ISO320 / WB:カスタムホワイトバランス /ストロボ1灯(レイヤー1左:MG8000+ソフトボックス、パワー1/2、照射角24mm)

ホワイトバランスプリセットの作り方(α7R Ⅲの場合)

  • カメラの設定でブラックボックス状態を作り、グリーンフィルターをストロボにつけて撮影する。
  • 白かグレーのものを撮影してデータを取り込む。
  • カスタムホワイトバランスとして登録する。

光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング

著者プロフィール

ILKO ALLEXANDROFF (イルコ・アレクサンダロフ)

ブルガリア出身、神戸在住のフォトグラファー。
ファッション、ポートレート、ウェディングなどを中心に活動し、
ストロボを使った独自の撮影スタイルがブレイク。
YouTubeに撮影技術を紹介する動画を多く投稿し、
Facebook、Instagram等のSNSでも多くのファンを獲得する。

書籍(玄光社):
光の魔術師イルコのポートレート撮影スペシャルテクニック

光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング

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