夜鉄
第8回

夜鉄テクニック解説編「超望遠」で暮れなずむ非日常世界を表現する

いわゆる「鉄道写真」は、写真撮影の一ジャンルとして広く認知されていますが、日常の中でカジュアルに撮れる一方で、作品に仕上げるという観点からは、動体・風景写真の技術や、写真芸術表現の感覚など、撮影者に複合的な素養を求める側面がある、奥の深い撮影ジャンルです。

風景写真家として知られる相原正明さんの著書「夜鉄(よるてつ)」では、夜行列車をテーマに撮影した作品集「STAR SNOW STEEL」と、夜に列車を撮影する際のテクニック解説を併せて収録した実践的なガイドブックです。

推奨する機材の方向性やロケハン時の留意点、写真セレクトの考え方、完成イメージを想定した絵コンテから撮影地周辺の見取り図まで、相原さんの「作品レシピ」とも呼ぶべき情報が詰まった一冊となっています。

本記事では「夜鉄テクニック解説編」より、絵コンテで作品イメージを固定した一例を紹介します。なお、ここで紹介した作例は、本書前半に掲載している作品集「STAR SNOW STEEL」に収録されています。

夜鉄

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超望遠レンズで作風に差をつける

Nikon D5 AF-S NIKKOR 400mm f/2.8E FL ED VR 絞り優先AE (F4.5・1/20秒) -2/3EV ISO10000 WB:マニュアル 三脚使用 8月7日 19時12分撮影 静岡県・岳南鉄道 岳南原田駅

1. Location

駅の先端からコンビナートが続く

岳南鉄道はその沿線に製紙工場等のコンビナートを有し、運がよければ鉄道と工場萌えと富士山が同時に撮影可能だ。特にこの岳南原田駅はホームの先端から製紙工場のコンビナートの敷地が広がり、正面に鎮座する工場を背景に画づくりできる。

駅の東が工場群、西が住宅街。駅前はマッサージ店などの照明がきつい。工場側の線路はすぐに工場の敷地に入る。

2. Concept

造形美とSF映画の世界観

メタリックなオブジェもしくは城に列車が滑り込んでいく、映画『ブレードランナー』のような世界観を狙ってみた。石油コンビナート等に比べて照明が少ないため、夜間ではなく薄暮を狙う。コンビナートの造形に圧倒され過ぎないよう、どの部分に魅かれるかを自問自答した。

3. Technique

テールライトは重要なファクター

夜間でピント位置に不安があったため、列車右下のポイントの光にピントを合わせた。メタリックな工場群に向かう列車の印象を強めるためにテールライトの赤色を狙った。

 

超望遠レンズで非日常の世界を演出

非日常の世界観を表すために、圧縮効果の強い400mmの超望遠レンズを選択。この工場のように造形が複雑なものは縦横両方撮るとよいだろう。煙突の位置が本作の決め手。

 

夜の撮影はフレアーに注意する

強い点光源があるとフレアーが出やすい。今回は超望遠レンズで列車と正対するため、より輝度の低い列車の後面を狙いフレアーを防ぎつつ、赤色を生かせる構図を考えた。

 

WBのマニュアルを積極的に活用する

実際はより暖色系の色味だったが、心に描いた「メタリックな城」のイメージはブルー。色温度を2800Kに下げイメージに近づけた。現実と異なることを恐れてはいけない。

 

絵コンテ

見取り図

3つの撮影ポイントはいずれもホーム上。駅舎前には自動販売機と夜18時まで営業するそば屋があり明るい。ポイントA、Bは工場群のある岳南江尾駅方面を狙う。掲載作品はAから撮影。300~500mmの超望遠レンズの使用を想定し、日没30分前、トワイライト、深夜の時間帯に分けて撮影を試みる。ポイントA、Bともに400~500mmで工場と電車の対比を、ポイントCは200~300mmでポイント(分岐器)越しの電車を狙う。撮影の際は絶対に工場敷地内に立ち入らないこと。不法侵入になると同時に大変危険な行為だ。


夜鉄

 

著者プロフィール

相原正明

1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影ツーリング以来かの地でランドスケープフォトの虜になり、以後オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。以後写真展はアメリカ、韓国、そしてドイツ・フォトキナでは富士フイルムメインステージで個展を開催。また2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンドオブタスマニア(タスマニア州観光親善大使)の称号を持つ。パブリックコレクションとして、オーストラリア大使館東京およびソウル、デンマーク王室に作品が収蔵されている。また2014年からは三代目桂花團治師匠の襲名を中心に落語の世界の撮影を始める。写真展多数。写真集、書籍には「ちいさないのち」小学館刊、「誰も言わなかったランドスケープ・フォトの極意」玄光社刊、「しずくの国」エシェルアン刊。


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