「震えるような写真を撮りたい」:写真家・福島裕二さんインタビュー後編

2018年1月に発売した戸田真琴さんのセカンド写真集「The light always says.」は、アメリカ・テネシー州のメンフィス、そしてロサンゼルスを舞台とし、一週間におよぶロケ期間中は、文字通り「全ての時間」を使って、戸田さんのありのままの姿を写した作品が収録されています。

発売に先がけて東京・渋谷で開催した同名の写真展や、「写真にレタッチを行わない」という作品の方向性も話題になりました。すでに作品を目にした読者の中には、ほとんどオフショットに近い写真が含まれていることに驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

戸田真琴写真集「The light always says.」

本記事では、写真集の製作に携わった写真家・福島裕二さんへのインタビューを前編、後編に分けてお届けします。後編では、ご自身の写真に対する考え方や、今後取り組みたい活動などについてのお話を伺いました。(前編はこちらから

model:アオイミヅキ

 

――趣味でも、仕事でも、福島さんが写真を撮る中で常に意識していることは何でしょうか?

僕が写真を撮る中で常に目指していることは、一般的な意味での「いい写真」ではなく、「震える写真」です。

ここでいう「いい写真」とは「なんだかわからないが、なんだかいい写真」。なんか良い、なんかおいしい、といったような、抽象的で、はっきりとしない言葉で評価されるようなもの。

でも僕が撮りたいのは、例えるなら「おふくろの味噌汁の味を久々に飲んだとき」あるいは「初恋の相手に出会った時」に感じるような、はっきりとした、鮮烈な、まさに「これだ!ワ〜ッ」という感覚。脳に直接うったえかけるような写真です。

僕の写真は全然SNS映えしないって言われます。「いいね」もほとんどつかないですよね。その一方で、僕の撮った写真を見て、もうそのモデルを撮れなくなるとか、写真をやめたくなる、なんて言う人もいるらしいです。

僕が人を撮る時に抱くものの根底にあるのは、「愛」なんです。それは「恋愛」というニュアンスではなくて、もっと真っ直ぐで普遍的な、言ってみれば「人類愛」のようなものです。

アシスタントの頃から今でもそれは変わらなくて、写真のテイストはずっと同じです。僕は人を撮る以外のことはよくわからないけれど、被写体となる人と向き合った時に、相手のことを世界一「愛している」自信があるんです。

ひとと向き合うこと、自分と向き合うこと

僕は撮影する時にモデルと圧倒的に向き合います。逃げちゃダメだと。でもモデルの中には、自分自身とも、他人とも、しっかり向き合ったことがない人もいる。だから、僕が撮った自分の写真を見て、泣いてしまう人も時々います。

「人を撮るって、どういうこと?」ということを常に考えています。写真は人生を変えられると本気で思っています。

――SNSであまり拡散されないというのは、意外な気がします。

僕は「いいね」をもらうために人を撮ってるわけじゃないから、そのせいでしょうね。

僕はこの業界に入るまでは、ほとんど写真を撮ったことがなくて、いきなりプロカメラマンのアシスタントになって、カメラマンになる勉強をしました。カメラマンカッコイイって感じで。師匠は大変だったと思います。カメラの裏蓋の開け方すら知らないのですから。

そこから4年間、ひたすら技術を身につけていったので、もしかしたら、多くのカメラマンとは順番が違うかもしれません。写真を仕事の撮影以外で撮り始めたのはここ2、3年くらいのことです。最近はすごく楽しいですね。

仕事では、クライアントの要求に答えることが第一優先です。でも、趣味の写真は違います。誰かに評価される必要なんてありません。僕が良いと思う写真を撮るだけなんです。だから、いいねがたくさんつかなくても、あまり気にしません。でも、たくさんもらえた時は、素直に喜ぶこともありますけど(笑)。

 

サロン「福島裕二写真研究所」

――今後、取り組みたいことは何かありますか?

今後は「福島裕二写真研究所」という名前のサロンをやりたいと思っているんですよ。最初はWeb上で、いずれはリアルで。

僕は女の子の写真を撮ることにかけては高い技術力を持っている自負があるので、その技術をみんなに伝えたい。もう少し詳しく言うと、僕の写真は、モデルの子の「気持ち」とか「表情」の再現性がとても高い。撮影に臨めば、必ず一定の領域まで到達します。

サロンではそのための技術を参加してくださった方に教えていきながら、僕の知らないことも教わっていきたい。そういう場にしたいんです。僕の写真を見て、撮影現場が気になった方は、是非参加してほしいですね。

――より具体的には、どういった事を伝えていきたいとお考えなのでしょうか。

いま「なんとなくいい」のまま写真を撮っている人がいたら、そこから一歩踏み込んで、「なぜそれを良いと思うのか」考えるところから勉強してみませんか、というのが僕の提案です。お互いにわからないところを話し合って、勉強していきたい。
SNSで誰かに評価してもらう写真もいいのだけど、それだけではなくて、自分が心から真っ先に「これが最高に良い」と思えるような写真を撮って欲しいと思っています。

――ところで、今注目している機材は何かありますか?

「Lensbaby」ですね。かなり使いこんでいます。僕はメインで使っているレンズがツァイスの「Otus 1.4/55」なのですが、自分でもEXIFを見ないと区別がつかないことがよくあります。もちろんよく写る条件というのはあって、それさえぴったり合わせれば、実は高級レンズ並みによく写るレンズなんです。

 

 

――当面の目標は何かありますか?

今、キヤノンの「Dreamlabo 5000」という業務用フォトプリンターに興味があります。これがあれば一部単位で写真集を作れます。例えばリアルサロンで一緒に活動している人たちと写真展をやって、一緒にお酒でも飲みながら写真を見て、「この写真いいな、欲しいな」なんて話になったら、その場で写真集を出して、持って帰ってもらう、みたいなことがしたいですね。

 

2018年にはじまる福島裕二氏のサロンについては、本人のTwitterをご参照ください

福島裕二さんインタビュー 前編はこちらから


戸田真琴写真集「The light always says.」

下記の書籍には、写真集ロケの様子の一部が収録されています。

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