2018年1月に発売した戸田真琴さんのセカンド写真集「The light always says.」は、アメリカ・テネシー州のメンフィス、そしてロサンゼルスを舞台とし、一週間におよぶロケ期間中は、文字通り「全ての時間」を使って、戸田さんのありのままの姿を写した作品が収録されています。
発売に先がけて東京・渋谷で開催した同名の写真展や、「写真にレタッチを行わない」という作品の方向性も話題になりました。すでに作品を目にした読者の中には、ほとんどオフショットに近い写真が含まれていることに驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、写真集の製作に携わった写真家・福島裕二さんへのインタビューを前編、後編に分けてお届けします。前編では、写真集製作時のエピソードを中心にお話を伺いました。(後編はこちらから)
人を撮る力は撮影技術と人間力
――フォトグラファーの仕事としては、普段どういった活動をされていますか?
主に人物撮影の仕事をしています。量的にはひと月当たりだいたい35本くらいでしょうか。被写体は女の子が非常に多いので、もしかしたら、日本で一番女の子を撮ってるカメラマンかもしれないです。この間シャッター数のカウントを見たら、1年半で69万シャッターくらい切っていました。
自分たちのやりたいことをやるためにクラウドファンディングで出版
写真集「The light always says.」の製作にあたっては、クラウドファンディングでの資金募集を実施。最終的に集まった支援金は当初目標金額の2倍を超える541万円におよび、そのほとんどをバッカー(出資者)へのリターンに充てています(リターン以外はロケ費用にのみ充当)。
――福島さんが戸田真琴さんの写真集を製作するに至った経緯について、お聞かせください。
これはトークショーとか色んなところで話していることなのですが、すごくシンプルで、真琴ちゃんが覚悟をもって「やりたい」と言ったからです。
元々はグラビアの撮影のときに、僕と真琴ちゃんとスタイリストの3人で話していたことが発端かな。時期的にはちょうどファースト写真集を出した後くらいだったと思います。みんなが思い浮かべるような、典型的な写真集をファーストとして出すことができたので、次はどうする?なんて話をしていて。
セカンド写真集ができるまでのストーリーは僕一人ではできないので、真琴ちゃんにきちんと協力してもらって、内容を詰めて、玄光社の編集者と相談して。そうしたらクラウドファンディングで資金を集めたらどう?という話が出たんです。
自分たちがやりたいことをやるために、どのような手段を採るか、からはじまって、その手段がクラウドファンディングだったという話ですね。
――そこまで被写体と組んで動くというのは、なかなか特殊なケースという気もします。
でも、それが本来の流れだと思うのです。あとは思いを形にする技術さえあればいい。この技術には、僕が写真を撮る時に使う技術力も含まれます。今回は実際に、クラウドファンディングを成立させ、形にすることができました。仮に技術がなければうまくいかなかった。それだけです。
――何もないところからいきなりクラウドファンディングを始めたということですが、資金面での心配はありましたか?
まったくなかったです。真琴ちゃんは自分の意思でがんばると言っているわけで、誰かにやらされているわけではありません。それで支援が集まらないのであれば、それはやり方を何か間違えている。なので支援が集まったのは必然です。
人って不思議なもので、嘘っぽさというのは感覚的に分かってしまう。だからちゃんと作ろうとしているものには、ちゃんと気持ちを返したいと思うものです。このあたりについても、Campfireのページを見てくださればご理解いただけるかなと思います。この間、バッカーさんたちへのお礼動画もアップしたのですが、これも、すごくちゃんとしてますから。
ありがたいことに、Campfireの「写真・アート部門」カテゴリにおいて、写真集を作る主旨のクラウドファンディングとしては歴代1位の支援総額になりました。
――アメリカでのロケは、どのような雰囲気で進んでいたのでしょうか?
みんなで映画の「聖地巡礼」旅行に行っているような、そんな感じですね。関わる人みんなが「ミステリー・トレイン」を観てから、まさに聖地巡礼の旅行に行くような感じ。旅行に行ったメンバーの中に、たまたまメイクが上手くて、たまたまスタイリングができて、たまたま写真の撮れる人がそれぞれいたから、結果的に撮れてた、みたいな作り方です。
撮影の際には、指示らしい指示もしていません。みんなで本人の気持ちを確認して、僕はヘアメイクにその時の気持ちを伝える。メイクの指示も一切しないし、衣装はスタイリストと真琴ちゃんで決めてます。僕が撮るのはそこじゃないので、何でもよかったし。
ロケ自体も、例えば朝起きて、みんなで街を歩いて、その中で見つけた光が差し込む中で「この光の中なら、温かい気持ちで撮れるかもね」という感じ。夕方まで歩いてちょっと眠くなったら、その気怠い感じのまま撮ろうか、で、撮ってる。そもそも「よーいドン」で撮り始めていたわけでもないので、オフもないし、すっぴんの顔だろうが全部撮ってます。
ところで、この写真集にはヌードも掲載しています。普通ヌードだと、「エロい絵」というのがあるんですが、今回に限ってはそれはできなかった。なぜなら僕は彼女とセックスをしないから。必然がなければヌードも撮りたくはなかった。だから枚数もすごく少ないです。それに僕の中でヌードというのは、脱いでる必要もないですし。
――作品ができあがったときの戸田さんの感想は、どのようなものでしたか?
真琴ちゃんは「福島裕二の撮る写真は、私がいつも鏡で見ている私で、そんな私をみんなが良いって言ってくれている」なんて、涙を浮かべなから言ってくれるんです。写っているのは彼女のすべてだし、僕は最高の瞬間でシャッターを切っている。僕はこの写真にすごく自信がある。レタッチなんて必要ないと思っているから、一切してないです。彼女は勇気があるし、僕はそれに応えた。だからこそ、見た人が否応なく感動する写真が撮れたと思っています。
――こういった作品は、言ってみれば「チーム福島」でなければ撮れなかった類の写真だと思うのですが、スタッフの方々とは、すでに何度も色んな現場で仕事をされてきたわけですよね。
そうですね。だからこそというわけではないですが、何も指示しなくても全員好き勝手にやるし、気も遣わないし。それに全員がお互いの事を信じてるしね。
――福島さんが作品を撮る環境を作るうえで、「やりやすい」チームを作ることは、どのくらい重要なのでしょうか。
重要かどうかは、撮るものによりますよね。例えば今回のようなプロジェクトではすごく重要ですよ。指示をしたのは僕じゃなくて真琴ちゃんだから。僕が偉くなる必要は全然ない。それに僕はスタッフやモデルさんたちに自分の思いを伝えて、そこで「できる」か「できない」かです。よしんば「全然できない」としても、僕の持ってる技術でなんとかできるので、極端な話「なんでもいい」というのが正直なところです。
――本プロジェクトについて、バッカーの方が評価したポイントはどこだったと思いますか。
「戸田真琴の世界観」と「それを世に出した僕」を信じてくれたのだと思います。僕らの側は利益を出そうという気がそもそもないので、リターンのクオリティを上げることができました。このプロジェクトは最低支援金額が3000円からのスタートですが、最低支援額でもサイン入りの写真集と、支援者限定の写真セットをお渡ししています。やや特殊な始まり方をしているというのもありますが、他のプロジェクトではこうはいきませんよ。
――プロジェクトのストレッチゴールとして、2018年1月に写真展も開催されていますね。その時の来場者の反応は、いかがでしたか?
2つのリアクションがありました。1つは「クラウドファンディングに参加して、一緒に作れてよかった」というもので、もう1つは「参加できなかったのがショックだった」というものでした。
6月には、再度ギャラリー・ルデコで写真展を開催します。今度は、前回よりも会期を伸ばして、会場も1フロア増やします。増やした1フロアではこの会場で飾るためのオリジナル作品を展示し、このフロアだけは入場を有料にする予定。これもいずれクラウドファンディングのプロジェクトで支援を集めるつもりです。これは写真展そのものを開催するためではなく、展示してある写真を優先的に、かつ安価に購入する権利をリターンとして用意したいと考えています。
(後編に続く)
下記の書籍には、写真集ロケの様子の一部が収録されています。