「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第5回のテーマは「蝶」。ひらひらと宙を舞う優雅さや、羽模様の美しさなどから世界中で愛されている昆虫であり、写真の被写体としてもよく見かけるモチーフです。比較的ありふれた被写体でもある蝶を作品レベルの写真に仕上げるコツは、どのようなものなのでしょうか。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
影のポイント
1. 蝶を撮る時は、写真にファンタジーを感じる要素を取り入れると面白い。
2. 引きと寄りの両方をカバーでき、ピント合わせのしやすいマクロレンズを使う。
川べりを歩いていた時、草木にとまった蝶が印象的だったので立ち止まりました。この時、意識したのは背景の紫色です。背景が緑色にボケている蝶の写真はよく見かけますが、紫色の混じった背景はあまり見ないので「不思議だなあ、いいなあ」と思ってシャッターを切ったことをよく覚えています。
ファンタジーを表現
春が到来して、蝶がひらひらと舞う穏やかな季節になってきましたね。わたしは蝶を撮影する時に、常に意識していることがあります。それは「写真にファンタジーを感じる要素を取り入れる」ということです。蝶って、なんだか非日常的な存在に感じませんか?この世のものとは思えない感じ、と言いますか。わたしは蝶を撮影する時、その感覚を表現したいので、ちょっと不思議に感じるような色や雰囲気、場所を選んで撮影をするようにしています。
信頼できるマクロレンズを
蝶は引いても寄っても面白い被写体です。引きと寄りをカバーできる、信頼できるマクロレンズを一本用意しておくとよいと思います。わたしも、お気に入りのマクロレンズ一本で引きと寄り両方を撮影しています。汎用性が高いのは50mmくらいのレンズでしょうか。蝶は動きが予測できないので、咄嗟に構えた時にもピントが合わせやすい一本を選ぶようにしましょう。個人的にはAFよりもMFの方がピント合わせがしやすいので、MFオンリーのマクロレンズを使用しています。
餌場に群がる蝶を撮影しました。マクロレンズで最短撮影距離まで寄って、蝶の形がわかる程度に絞りを開けてシャッターを切りました。蝶は隅々までピントを合わせて撮影すると案外グロテスクなので、あえて蝶全体をぼんやりぼかすことによって、現実の生き物ではないような、夢の中にいるような感じを表現しました。
どういうわけか蝶が道の真ん中を歩いているのを発見したので、ハっとして思わずシャッターを切りました。蝶は「飛んでいる」イメージが強い生き物です。歩いているところをほとんど見たことがないのでこの姿を「意外だ」と感じたのがハっとした理由です。道の真ん中をポツンと歩く、不思議な蝶の雰囲気をそのまま写し撮りたかったので、やや引いて、まわりの情景がわかるようにしました。ファンタジーさが増すよう、少しハイキー気味に仕上げています。
青い色をした池の水面に、うすい黄色をした蝶が浮かんでいるのを見つけて、全体的な淡い色調がきれいだなと思ってシャッターを切りました。この蝶はよく見るとお亡くなりになっておりまして…。蝶に注目しすぎると暗い印象になるなと思ったので、少し引いて、さらにハイキー気味に調整をして現実感を薄くしました。