町撮りアート写真ブック〜思いつくままに写真を撮って楽しむ〜
第2回

「芸術」は特別なことじゃない。歩いて見つけるアート写真の被写体

町撮りアート写真ブック」(丹野清志・著)では、主にメインストリートから外れた裏道や、抜け道にある様々なモノの写真を掲載しています。これらは決して特別な被写体ではなく、日常の中にある「ありふれた空間」です。

著者の丹野清志さんは、今日、広く使われている「アート」という言葉を、ありふれた日常の中にある、身近で私的な表現世界と解釈しており、人それぞれ、見方によって、何の変哲もないものがアートの素材になるといいます。

丹野さんは本書において「あたりまえに撮り、ふつうのこととして見る、ふつうのアート写真を楽しむ」ことを試みています。では具体的に「ありふれた空間」のどこにアートを見出しているのでしょうか。

町撮りアート写真ブック

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私は、いつもとりとめもなく町を歩いてとりとめもなく写真を撮っています。「傑作」を狙って撮るようなことはなく、街を歩いて、いろんなものを見て、その時その時に感じるままを写真にしているのです。

それらの写真を私はアート写真とともに、「片隅写真」と呼んでいます。かたすみだなんてなんだか暗そうでやだネ、と広くはウケないかもしれませんが、隅っこでこそこそ撮ってるみたいないじけた撮り方ではありません。片隅とは目立たない場所、中心から離れた場所という意味ですから、町の道で言えばメインストリートの本道に対して裏道、脇道、抜け道ということになるでしょうか。

町撮りで面白いのは、多くの人が歩くことはない裏道です。メインストリートは市街地ですから当然華やかですが裏道、裏通りは暗い、という思い込みがあったのはひと昔前のこと。地方の寂れた町の裏道にはちょいとじとっと湿っぽい雰囲気のところもありますが、今日の多くの町に昔のような暗さは見当たらない。ふつうにある古い佇まいに新しさが程よく加わっている町というのがいいですね。

中心地の写真はみんなが撮るのであえて撮ることもないわけで、観光地であれば旅行ガイドブックや観光パンフレットなどに写真があふれていて、何を撮っても観光写真になってしまう。いわゆる撮影スポット的な場所を撮っても面白くもなんともない。だから私流片隅写真の場所は、どこへ行っても裏道、脇道、抜け道。その土地の人が歩くふつうの町並みの道です。

初めて歩く町だったりすると、よーしいい写真撮ってやるぞと意気込まないまでも、何か刺激的なものがないかと期待するものです。

結局いつもの町撮りと変わることなく、ありふれたものを撮ることになるのですが、町が変われば当然歩く気分が変わります。気分が変われば町の見え方が違ってきます。具体的に何が違うということではなく、空気感の違いとでもいうようなことなのですが、それを感じることができる写真を撮れるかどうか。被写体を探すということは、それぞれの町が醸し出す町のにおいにふれることでもあるのです。


A町へでかけて、特に何もなさそうだからと通過するだけとしていたB町を歩き、さらにC町へと移動したことがあります。それでB町C町を歩いてみると、なんと町撮りを目指したA町より夢中になって歩き回ったのです。片隅の光景にカメラ構えては、いいねぇ、いいねぇとひとり言の連発ですよ。珍しいものがあったというようなことではなく、ありふれた町だけど何か気になる写真というのを撮っていたいですね。

近年、全国的に都市化して町並み風景はどこも同じような形になっていて、古くからの町のにおいが残る片隅の風景が消えつつあります。が、すっかり消えたわけじゃない。歩いてみると心にしみる片隅はまだあります。消えゆくものというのはずばりアート写真の素材ですから、町の変貌が激しい今、ますます町の片隅が面白くなると思います。

たとえば、空き地。昔だったら空き地は子どもたちの遊び場でした。明るい場所でした。今は町角の小さな公園でさえさびしい場所になっています。

商店街などで古い家が解体された後、駐車場に利用されているケースがありますが、空き地のままにしてある場所は、全国いたるところに増えてきています。かつての賑わいを失った町のあちこちに草に覆われて放り出されている空き地は、なんとも不思議で奇妙な空間なのです。

空き地の写真を例にしましたが、町撮りで出会う風景は、視点を変えれば現代社会の象徴的風景に見えてきます。美術の「現代アート」では現代社会との関わりをテーマにしていますが、そういうアート写真の展開もあると思います。

何もない町に写真の被写体なんてないよ、という人は写真の目で見ようとしていないからで、ありふれた町のありふれた片隅に、ひょっこりアート写真の舞台が顔を出しているのです。

 


<玄光社の本>

町撮りアート写真ブック

著者プロフィール

丹野 清志

(たんの・きよし)

1944年生まれ。東京写真短期大学卒。写真家。エッセイスト。1960年代より日本列島各地へ旅を続け、雑誌、単行本、写真集で発表している。写真展「死に絶える都市」「炭鉱(ヤマ)へのまなざし常磐炭鉱と美術」展参加「地方都市」「1963炭鉱住宅」「東京1969-1990」「1963年夏小野田炭鉱」「1983余目の四季」。

主な写真集、著書
「村の記憶」「ササニシキヤング」「カラシの木」「日本列島ひと紀行」(技術と人間)
「おれたちのカントリーライフ」(草風館)
「路地の向こうに」「1969-1993東京・日本」(ナツメ社)
「農村から」(創森社)
「日本列島写真旅」(ラトルズ)
「1963炭鉱住宅」「1978庄内平野」(グラフィカ)
「五感で味わう野菜」「伝統野菜で旬を食べる」(毎日新聞社)
「海風が良い野菜を育てる」(彩流社)
「海の記憶 70年代、日本の海」(緑風出版)
「リンゴを食べる教科書」(ナツメ社)など。

写真関係書
「シャッターチャンスはほろ酔い気分」「散歩写真入門」(ナツメ社)など多数。

著書(玄光社)

「写真力を上げるステップアップ思考法」

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