映像監督・イラストレーターの雨宮慶太氏が筆で描いた、斬新かつ緻密なイラストをまとめた『雨宮慶太作品集・陰/陽』の発売を記念したトークイベントが2023年7月29日に新宿のLOFT/PLUS ONEで開催された。
ゲストにイラストレーター・漫画家の寺田克也氏と造形作家の竹谷隆之氏を招いて、本作と創作について語った。
雨宮氏が監督を務めた映像作品のキャラクターデザインを寺田氏が、造形を竹谷氏が担当するなど旧知の仲である。雨宮氏のイラスト制作を中心に、3名の創作に関わる思いが数多く聞かれたイベントの一部を本レポートでお伝えする。
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阿佐ヶ谷美術専門学校の先輩・後輩にあたる3名は長年親交があり、息のあったトークが聞かれた。寺田氏が場をまわしながら、雨宮氏がそれに答え、竹谷氏がいじられるという流れで終始進行した。
今が人生で一番絵を描いている
雨宮慶太氏(以下、雨宮):今日はふだん創作につかっているマルマンのスケッチブックを持ってきたけど、寺田も同じもの使ってたよね。筆ペンで描くようになってから使いやすさがわかってきた。
寺田克也氏(以下、寺田):描きやすくて。高校生の頃から使ってますね。
竹谷隆之氏(以下、竹谷):今回の作品集には何年分くらいのイラストが掲載されてます?
雨宮:4年分くらいかな。描く上で決めているルールは失敗しても破らない(捨てない)こと。続けていくと皆さん、成長しますよ。でも、たくさん描いて、上達したのは画力というよりごまかしかな。
画力は生まれ持ったものからある程度成長すると、そこまで伸びない。どうまとめてデザインを着地させるかの「ごまかし」のスキルが伸びてくるよね。あとは描いた途中で寝かせることもある。そういうのない?
寺田:ありますね。見立てるってことですよね。
雨宮:そうそう。時間を置いて寝かせることで、失敗した絵でもエレメントが新しい想像に活かせることはあるね。
竹谷:描く前にモチーフのイメージは固めてますか?
雨宮:固めることも手癖で描くことも両方あるかな。Twitter(X)でも頻繁に描いた絵を投稿したり、お題をもらって創作したりすることもあるけど、今が人生で一番絵を描いていると思う。
まぁ、今映画を撮っていないから時間があるというのもあるけど(笑)
映像と絵の住み分けは、技術の進歩でなくなっていった
雨宮:映画の絵コンテとかと絵としてのイラストはまったく違うよね。絵コンテはスタッフ向けのものだし、イラストはシーンの切り替えを意識しないから。イラストは受注でも創作でも、作品としてそれ自体に報酬が発生するものだから、映像向けの絵コンテとは意識が異なってくる。
最近は発注を受けるよりも自発的な創作が多いから、たまに発注を受けると困る(笑)
寺田:下書きチェックや確認の工程が入るから別物ですよね。
雨宮:そう。最近は創作がメインだからね。そんな作品がまとまってきたから、書とイラストそれぞれに着地したものを「陰/陽」にわけて作品集に掲載した。
掲載した作品は好き嫌いや人気不人気でなく、全体の流れをみて「この字がここにあると収まりがいいかな」といった視点から選んだんだよね。
雨宮:筆文字を創作に使いだしたのはいつだったかな。「ゼイラム2」(※1994年公開 雨宮氏原作・監督・脚本による映画)のエンディングに使ってからかな。
寺田:そうですね。でも、雨宮さんの今の作風が出来てきたのは「キバクロウ」(※1996年発売 雨宮氏著のマンガ作品)からかなと思います。
雨宮:そうだね。以前は映像と絵を住み分けしていたけど、最近はなくなってきた。昔はフィルムでの合成が大変だったけど、「牙狼〈GARO〉〜MAKAISENKI〜」(※2011年-2012年放送)あたりでCGが手軽に使えるようになって、自分が描いた筆文字を映像に組み込むことが簡単になったんだよね。
寺田:アナログをデジタルで活用できるというのは、自分の仕事にも共通しますね。
雨宮:今後考えている作品も色々考えているけれど、なかなか進まなくて。これ、なんで進まないんだろう?って考えると、牙狼<GARO>の絵本が終わってないんだよね(笑)
寺田:牙狼<GARO>の絵本ってなんですか?
雨宮:劇中で出てくる絵本があるんだけど、それを絵本として完成させようというプロジェクトがあって。
話をまとめるのに4ヶ月かかって。一枚の絵の色付けに2ヶ月かかったんだよ。
竹谷:どうしてですか?
雨宮:俺も分からないんだよ(笑)
雨宮:それは冗談として。その絵本が30代の頃の俺の画風をベースにしていて。今と違う描き方をしているから苦戦したんだよね。
寺田:若き日の雨宮が邪魔してたんですね(笑)
雨宮:まぁ半分くらいまでは出来ているから、頑張れば今年中には出来るかなと思っているんだけど。
竹谷:あっという間ですよ、今年が終わるまで。
寺田:大丈夫ですよ。手伝いにいきますよ、竹谷が(笑)
竹谷:お前もいけよ(笑)
創作を生業とする3人の話は、それを志向する人にとって大いに参考になる
オリジナルだけで創作活動をするには勇気が必要
雨宮:今はオリジナルの創作と、クライアントワークの比率ってどうなの?
寺田:俺は展覧会を開催してるので、展示用に絵を描くのが半分。それ以外で依頼を受けるのが半分ですね。
雨宮:その比率は自分から目指したの?
寺田:自然とそうなったけど、自分だけの世界だと狭くなるので、人からのフィードバックはほしい。そういう意味では自分にとってちょうどいい比率ですね。
俺はアーティスト気質ではないから、依頼とオリジナル半々がいい。
竹谷:自分はクライアントワークが8割くらいですかね。
雨宮:オリジナルの創作はしている?
竹谷:しているってことにしといてください(笑)
雨宮:俺はやるなら”これからオリジナルしかやらない!”って宣言したいな。
寺田:早い人は40代で芸術作品しか作らないって宣言するケースもありますよね。そういう人がイラストの仕事を請けなくなったから、俺に一部がまわってくることもあるけど(笑)
雨宮:オリジナルしかやらないってのは勇気がいるよね。経済的にもそうだし。純粋なアートだと極論発表しなくてもいいからね。「いい作品が出来た!おしまい」でもいい。
寺田:業界的に「ハイ・アート」(※高級芸術)と、自分のような「ローブローアート」(※大衆芸術)だと作品の金額も変わってくる。ハイ・アート一本でやるのは大変ですよ。
雨宮:お金とか人脈とかそんな話ばかりで、作品を創ることへの喜びが滲みでてない人には疑問符がつくけどね。
寺田:それ誰のこと言ってます?(笑)
竹谷:俺のことじゃないですよね?(笑)でも、職人的な観点から作品にかけた手間暇をもとに金額で評価されたいという思いは、あって然りだと思います。
人を感動させるポイントは「面倒くさいの積み重ね」
雨宮:でも創作の根本に誰かに認められたいって思いはあるよね。「見たことない経験をしてほしい」「喜んでもらいたい」って思いが。
寺田&竹谷:(頷く)
雨宮:子供の頃に描いた蛇女イラストを、「おっぱいが鱗になっているのがいい!」って親戚のお兄ちゃんに褒めてもらって。すごく嬉しかったのを覚えてる。
寺田:創作にハマる原点ですよね。
雨宮:でも俺ら3人は初代「エイリアン」が好きだったり、クリーチャーに惹かれたり。好きなものが基本的に一緒だよね。
寺田&竹谷:そうですね。
(「イラストやイメージを具現化するときに気をつけていることはなにか」という質問を受けて)
竹谷:現実にはありえない存在にいかに実在感をもたせるかは気をつけてますね。
寺田:我々3人とも、存在しないものをいかに映像や絵や造形で具現化するかという仕事をしてて。作品を見てくれる人に共感をもってもらうことは皆、重視していると思いますね。
ひとりよがりじゃないところに着地させようとしています。
雨宮:完成したものが人に響くかどうか、作品の良し悪しでなくそれが大切だと思うよね。その中で映像の仕事をしていてよかったなと思うのが、あることに気づいたこと。
「面倒くさいな~」と思うことを積み重ねるのが、人を感動させる一番簡単なやり方なんだよ。映像のひとつひとつとっても面倒くさいことをしっかりやれば、人の心に響く作品が作れると思う。
このほかにも影響を受けた作品や、今後の創作に向けた思いといったさまざまな質問への回答や抽選での来場者プレゼントなどが行われた。
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