イラストレーションはもちろん、写真や映像など視覚に訴えかける媒体においては、登場人物の感情や作品世界の表現に、しばしば「モノクローム」が採用されます。
モノクロの画面は一般的に、カラー画面よりも色彩の情報が少ない分、主題の「明暗」や「形」に意識が向きやすいと言われています。モノクロのイラストレーション、とりわけキャラクターの表現においては、線の使い分けやラインの引き方、質感の表現方法、影の付け方、塗り方を工夫することによって、モノクロならではの独特な雰囲気を演出することも可能であり、それはモノクロイラストが持つ魅力の一つでもあります。
「モノクロイラストテクニック」は、モノクロでキャラクターを作画する際のテクニックを紹介する指南書です。イラストレーター・jacoさんによる詳細なテクニック解説をはじめ、カラーイラストにはない表現手法、イラストのクオリティチェックを行うために見るべきポイントなども紹介するほか、jacoさんが得意とする「角娘」(角の生えた少女)のモノクロイラスト集としても楽しめる一冊にまとまっています。
本記事では、第6章「水墨画テイストのイラスト」より、水墨画テイストで可能になる表現のいくつかを紹介します。
水墨画テイストなイラストの特長とは
一般的な水墨画のイメージは「筆のタッチ」「にじみ・ぼかし」「薄墨の中間色」「墨の強さ」といった4つの特長に分類ができます。筆の筆圧で抑揚のついた輪郭線や、かすれやぼかしで形を曖昧にしたタッチなど、同じ黒一色の絵でも、これまでの作画方法とは異なる表現が可能になります。これらの特性を生かして、水墨画テイストのイラストではどんなことができるのか検証してみましょう。
- にじみの効果でフワフワとした質感になりました。
- 濃度を変えて、いくつもの中間色を使っています。
- ハイライト部分には手を加えていません。
- にじみを使い、グラデーションの効果を表現しています。
- 線をぼかし、輪郭線を曖昧にしています。
- 筆のかすれが、絵に躍動感を与えています。
筆のタッチ
勢いをつけ、太い筆で流れるように線を引くのは水墨画の最も特長的な技法です。さらに筆に含ませた墨がなくなると、線の末端にかすれた筆跡が残るのも水墨画ならではの効果でしょう。多用せずに、ここぞというポイントで使ってほしい技法です。
にじみ・ぼかし
墨は水溶性のため水を多く含ませることで、にじませたり、ぼかしたりすることができます。ハイライト付近の明るい部分であったり、奥行きを感じさせたい場所、さらに境界を曖昧にする印象派のような使い方も可能です。
薄墨の中間色
水墨画では墨を水で薄めたグレートーンを中間色として使っています。段階的に濃さを変えトーンに幅をもたせ、素材や質感の違いを中間色で表現することができます。この中間色を、にじみやぼかしの技法と組み合わせて使用する場合も多く見られます。
墨の強さ
水墨画では影になる部分や、動きやフォルムのポイントとなる部分に強い黒ベタが配置されています。これ以上手を加えることはできませんが、墨の黒さによって、画面全体が締まる効果が生まれます。
<玄光社の本>