イラストレーションはもちろん、写真や映像など視覚に訴えかける媒体においては、登場人物の感情や作品世界の表現に、しばしば「モノクローム」が採用されます。
モノクロの画面は一般的に、カラー画面よりも色彩の情報が少ない分、主題の「明暗」や「形」に意識が向きやすいと言われています。モノクロのイラストレーション、とりわけキャラクターの表現においては、線の使い分けやラインの引き方、質感の表現方法、影の付け方、塗り方を工夫することによって、モノクロならではの独特な雰囲気を演出することも可能であり、それはモノクロイラストが持つ魅力の一つでもあります。
「モノクロイラストテクニック」は、モノクロでキャラクターを作画する際のテクニックを紹介する指南書です。イラストレーター・jacoさんによる詳細なテクニック解説をはじめ、カラーイラストにはない表現手法、イラストのクオリティチェックを行うために見るべきポイントなども紹介するほか、jacoさんが得意とする「角娘」(角の生えた少女)のモノクロイラスト集としても楽しめる一冊にまとまっています。
本記事では、第5章「黒ベタ面を使ったイラスト」より、墨ベタのないイラスト、ほぼ墨ベタで構成されたイラストから受けるそれぞれの違和感について分析する主旨の記述を抜粋して掲載します。
黒ベタを使う場合の構図やバランスの違い
完成イラストをベースにして、極端に異なる表現で絵をまとめてみる実験をしてみました。そこで生じる違和感にはどんなものがあり、完成イラストとの違いは何なのかを見てみましょう。
頭部と足元の黒ベタがバランスをとり、その危うさも絵の演出に。
頭部と足元のタイツに黒ベタを使っています。頭部のインパクトある巨大な塊を誇張させることが、この絵の狙いです。足元の黒ベタが頭部とのバランスをかろうじて取っていますが、そのアンバランスさも演出の一つです。
- 衝撃的で、大きくて重量感のある角を描いてみました。
- インパクトがあり、まず一番に目がいくポイントになっています。
- 足元の黒ベタが頭部と対比して、絵としてはバランスを保っています。
墨ベタを全く使わない場合:描き込みのタッチは多いが、インパクトはなくなってしまった。
黒ベタがなくなったことで、全体の印象が軽くなってしまいました。さらにインパクトを与えていた頭部の角からは、重量感が全く伝わらなくなってしまいました。
- 線のみの陰影では、インパクトが与えられていません。
- 頭部の角の重量感が伝わってきません。
- 一番に目がいくポイントが、角ではなくなってしまいました。
- 足元も軽くなり、踏ん張っているように見えません。
全体を墨ベタにした場合:全身の黒ベタで重量感は増したが、巨大な角は埋もれてしまった。
全てを黒ベタにしてしまえば、さらにインパクトが出るかといえば、そうはなりませんでした。全体の印象が均一になってしまい、重量感は伝わりますが、最初に目にしてもらいたかった頭部の角は埋もれてしまいました。
- 最初に目に飛び込んで来るはずの、重くて大きな角が目立ちません。
- 全てが黒い、ただそれだけでインパクトのないイラストになってしまいました。
- 黒ベタの面積が増えて、重量感はさらに強調されました。
<玄光社の本>