西洋絵画入門! いわくつきの美女たち
第5回

『真実を明らかにする時間の寓意』ジャン=フランソワ・ド・トロワ(1679〜1752年)

絵画に描かれた「いわくつきの美女」や、さまざまなエピソードを持つ「いわくつきの美女絵画」など、280点の西洋絵画を美術評論家の平松 洋氏の解説で紹介する本書「西洋絵画入門! いわくつきの美女たち」。神話の女神から、キリスト教の聖女や寓意像の美女、詩や文学に登場するヒロイン、王侯貴族の寵姫や貴婦人、そして高級娼婦まで、いろいろなバックストーリーに彩られた「美女たちの名画集」としても楽しめる一冊となっています。
ここでは、本書から、いわくつきの美女たちをご紹介していきます。
第5回は「寓意画〜美女にたとえられしもの〜」から「真実を明らかにする時間の寓意」(ジャン=フランソワ・ド・トロワ作)をご覧ください。

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西洋絵画入門! いわくつきの美女たち

ヴェールを脱がされた美女の名は「真実」

ジャン=フランソワ・ド・トロワ
『真実を明らかにする時間の寓意』

1733年
キャンヴァスに油彩 203×208cm
ナショナル・ギャラリー、ロンドン

ここに描かれた人物は、すべて、抽象的な概念を擬人化した寓意像なのです。空を飛ぶ翼のある父なる「時間」が、世界を象徴する球体(地球)に足を置く、白い衣服の「真実」からヴェールを取り、顔が明らかにされています。一方、「真実」は左手で「偽り」から仮面を剥ぎ取り、右手で枢要徳(「知恵」「勇気」「節制」「正義」)を指しています。「知恵」は蛇を、「節制」は水差しを、「正義」は剣と天秤を持ち、「勇気」はなんと、ライオンに肘を置き、寄りかかっています。

絵の主題は、「真実は時間の娘」という故事に基づき、真実は時間の経過によって、必ず明らかになるということを意味しています。

下のバトーニも描いていますが、「真実」はいつも一人の美しい女性の姿で描かれてきたのです。

ポンペオ・バトーニ
『真実を明らかにする時間の寓意』
1740~45年
キャンヴァスに油彩 43.3×26.5cm
シカゴ美術館

西洋絵画入門! いわくつきの美女たち

著者プロフィール

平松 洋

美術評論家、フリー・キュレーター。
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学文学部卒。企業美術館キュレーターとして活躍後、フリーランスとなり、国際展のチーフ・キュレーターなどを務める。現在は、早稲田大学エクステンションセンターや宮城大学などで講師を務めるかたわら、執筆活動を行い、その著作は、海外3ヵ国地域での翻訳出版を含めると50冊を超える。主な著作としては、『誘う絵』(大和書房)、『「天使」の名画』(青幻舎)、『名画の謎を解き明かすアトリビュート・シンボル図鑑』、『クリムト 官能の世界へ』、『名画 絶世の美女』シリーズ(以上、KADOKAWA)他多数。

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