絵画に描かれた「いわくつきの美女」や、さまざまなエピソードを持つ「いわくつきの美女絵画」など、280点の西洋絵画を美術評論家の平松 洋氏の解説で紹介する本書「西洋絵画入門! いわくつきの美女たち」。神話の女神から、キリスト教の聖女や寓意像の美女、詩や文学に登場するヒロイン、王侯貴族の寵姫や貴婦人、そして高級娼婦まで、いろいろなバックストーリーに彩られた「美女たちの名画集」としても楽しめる一冊となっています。
ここでは、本書から、いわくつきの美女たちをご紹介していきます。
第5回は「寓意画〜美女にたとえられしもの〜」から「真実を明らかにする時間の寓意」(ジャン=フランソワ・ド・トロワ作)をご覧ください。

ヴェールを脱がされた美女の名は「真実」

『真実を明らかにする時間の寓意』
1733年
キャンヴァスに油彩 203×208cm
ナショナル・ギャラリー、ロンドン
ここに描かれた人物は、すべて、抽象的な概念を擬人化した寓意像なのです。空を飛ぶ翼のある父なる「時間」が、世界を象徴する球体(地球)に足を置く、白い衣服の「真実」からヴェールを取り、顔が明らかにされています。一方、「真実」は左手で「偽り」から仮面を剥ぎ取り、右手で枢要徳(「知恵」「勇気」「節制」「正義」)を指しています。「知恵」は蛇を、「節制」は水差しを、「正義」は剣と天秤を持ち、「勇気」はなんと、ライオンに肘を置き、寄りかかっています。
絵の主題は、「真実は時間の娘」という故事に基づき、真実は時間の経過によって、必ず明らかになるということを意味しています。
下のバトーニも描いていますが、「真実」はいつも一人の美しい女性の姿で描かれてきたのです。

『真実を明らかにする時間の寓意』
1740~45年
キャンヴァスに油彩 43.3×26.5cm
シカゴ美術館
