西洋絵画入門! いわくつきの美女たち
第2回

『ダナエー』グスタフ・クリムト(1862~1918年)

絵画に描かれた「いわくつきの美女」や、さまざまなエピソードを持つ「いわくつきの美女絵画」など、280点の西洋絵画を美術評論家の平松 洋氏の解説で紹介する本書「西洋絵画入門! いわくつきの美女たち」。神話の女神から、キリスト教の聖女や寓意像の美女、詩や文学に登場するヒロイン、王侯貴族の寵姫や貴婦人、そして高級娼婦まで、いろいろなバックストーリーに彩られた「美女たちの名画集」としても楽しめる一冊となっています。
ここでは、本書から、いわくつきの美女たちをご紹介していきます
第2回は「神話画~神々と美女たちの物語~美を巡る神と人の物語」から『ダナエー』(グスタフ・クリムト作)をご覧ください。

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西洋絵画入門! いわくつきの美女たち

エロティックなポーズを借用した恍惚の美女

グスタフ・クリムト
『ダナエー』

1907~08年
キャンヴァスに油彩 77×83cm
個人蔵

ダナエーを見初めた最高神ゼウスは、黄金の雨になって、彼女を襲います。頬を紅潮させたその顔には、恍惚の表情が浮かんでいます。描いたのは、黄金様式で知られるクリムトです。体を丸め、股間を開くポーズはなんともエロティックですが、クリムトの発明ではありません。元になったのは白鳥に化けたゼウスに凌辱されるレーダーのポーズで(下図)、黄金様式の画家だけあって、黄金の雨に襲われるダナエーに転用していたのです。

ピーテル・パウル・ルーベンス
『レーダーと白鳥』(ミケランジェロの模写)
1600年頃
板に油彩 64.5×80.5cm
個人蔵

ルネサンスに古代ギリシャの文芸は復活しますが、実は裸婦画のポーズさえも復活したのです。しかし、レーダーのポーズはあまりに艶めかしく、これを復活し得たのは、レオナルドとミケランジェロだけでした。両巨匠作は紛失していますが、ルーベンスをはじめ模写が何点か残されていて、レーダーのポーズを踏襲できたのです。


西洋絵画入門! いわくつきの美女たち

著者プロフィール

平松 洋

美術評論家、フリー・キュレーター。
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学文学部卒。企業美術館キュレーターとして活躍後、フリーランスとなり、国際展のチーフ・キュレーターなどを務める。現在は、早稲田大学エクステンションセンターや宮城大学などで講師を務めるかたわら、執筆活動を行い、その著作は、海外3ヵ国地域での翻訳出版を含めると50冊を超える。主な著作としては、『誘う絵』(大和書房)、『「天使」の名画』(青幻舎)、『名画の謎を解き明かすアトリビュート・シンボル図鑑』、『クリムト 官能の世界へ』、『名画 絶世の美女』シリーズ(以上、KADOKAWA)他多数。

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