醤油という調味料は、私たち日本人の食卓に欠かせない存在でありながらも、あるのが当たり前だが実はあまり詳しく知らない、という方もいるのではないでしょうか。
「醤油本 改訂版」は、醤油の歴史から製造過程の詳細、好まれる味の地域性や蔵元への取材などを通して、醤油への理解を深めることのできる一冊です。醤油に関する広範なデータをコンパクトにまとめており、読めば自分好みの醤油を探す一助になることでしょう。2015年に発行した同名の書籍から内容を更新し、蔵元データのアップデートを行いました。
本記事では第1章「醤油を知る」より、地域によって好まれる醤油の味を抜粋して紹介します。
醤油の地域性
郷土料理が全国各地にあるように、好まれる味も土地それぞれ。甘かったり、濃かったり、はたまた食材に色をつけない醤油が好まれたり。あなたはどんな醤油で育った?
物流が発達しても残る地域の味
「九州の醤油は甘いなぁ」という関東人。「東京の醤油は辛いなぁ」という九州人。一口に醤油と言っても、全国津々浦々に根付いた味があり、人それぞれ慣れた味を「美味しい」と感じやすいもの。本州の日本海側や四国、九州は甘い醤油を好む傾向があり、九州の中でも特に鹿児島など南に行くほど強い甘さを好む。一方、東海地区は濃厚な溜醤油を好む人が多い傾向もある。
このような地域色が濃く現れたのは、輸送手段が現代のように整っていなかった頃。道路や鉄道が整備されておらず人力で運んでいた時代だ。醤油は重くて運搬の負担が大きかったため、販売先は地元だった。そして醤油は、それぞれの地域の食文化や嗜好に合わせて育まれていった。
最近は大手メーカーや プライベートブランドが全国各地で買えるようになり、味の画一化が進んでいる。しかし、そんな状況下でも全国には大小1000軒余もの醤油メーカーがある。日本各地に点在する蔵は地域に根ざした醤油を作り、小さな蔵の近くには「この蔵の醤油じゃないとダメ」と選ぶ人がいる。地域の味が残るのは、蔵と消費者のこうした強い絆があってこそ。