和風ファンタジーの世界観は、アニメやゲームなどで人気のある類型の一つです。わたしたちが歴史の中で垣間見る過去の日本とは似て非なる日常生活の様相には、その世界でこれから繰り広げられる物語への期待を掻き立てる魅力があります。
「和の幻想世界の描き方」では、イラストレーター七原しえさんが、イラストの背景にある設定のほかアイデアを発想するコツ、イラストに仕上げるまでの制作手順を詳細に解説。世界観の設定からイラストレーションを起こす技術を身につけられる一冊となっています。
本記事では第1章「春霞」のイラスト製作工程のうち、コンセプトを決めるイメージボードと、作品全体を演出する背景やアクセサリー類について解説します。
春霞(はるがすみ)
まずは、春の季節のイラストです。桜と和傘、アレンジ和服の組み合わせは和風イラスト定番の題材です。画面全体を薄紅梅色に統一し、満開の桜と花吹雪で見た目の印象も華やかに仕上げました。
資料設定解説
春がテーマの作品です。イメージを固めるために、物語の設定用にコンセプトイラストを作成しました。桜色に霞んだ幻想的な神の世界のイメージです。
イメージボード
ストーリー
その山の奥深くには、古い桜の大木があるという。毎年春の時期になると沢山の花を咲かせ、辺り一帯を桜色に染め上げる。そこには春姫が住んでいて、世にも美しい姿をしているのだそうだ。だが実際にそれを見たものはいない。その桜を見ようと向かい、帰ってきた者は1人もいないためだ。ある若者が話を確かめるため、村人が止めるのも聞かず1人山に分け入った。夜通し歩き続け、たどり着いた目の前の年経た巨木を見上げると、満開の桜の合間から髪と衣をたなびかせた美しい春姫が微笑んでいる。春霞と花吹雪が途端に若者に襲いかかり、目の前が何も見えなくなってしまった。この若者もまた二度と帰っては来ず、村人たちは『今年も春姫に1人連れ去られてしまった』と噂をしたという。後に嵐で倒れたその桜の根元を掘り返すと、そこから沢山の人骨が見つかったのだそうだ。今はそこには切り株と、小さな祠だけが建っている。
アイデア発想術
アレンジ和服で人物のファンタジー性を演出
和風だけど普通の和服ではない、オリジナルの和風アレンジは様々な和風モチーフ同士を組み合わせことが重要です。また、ある部分の大きさを強調したり逆に小さくしてみたりする方法もあります。今回は髪飾りに風鈴を足したり、着物の袖や裾を大きく広げることでファンタジー性をプラスしました。
第二の主役、桜の巨木で画面全体を補完する
まっすぐ伸びた桜の枝や幹でなく、曲がりくねり人物を覆うような形の大樹を描くことで、この桜の木が神木であったり、人物が人外や神様であることを想像させることができます。画面全体を華やかにするだけでなく、右側の幹の少し暗い色を入れることによって、全体の色合いを引き締める効果も生まれます。
目立つアクセサリーを追加する
春がテーマということで、蝶がモチーフのアクセサリーを袖に付けることにしました。今回胸元や腿の部分は木や枝で隠れてしまっているので、画面に対して面積の広い衣装部分、袖に長めのフリルや大きめの蝶の羽根要素も加えて、しっかりとアレンジ要素が目立つようにしています。
和傘とリボンで画面に複雑さをプラス
春がテーマということで、蝶がモチーフのアクセサリーを袖に付けることにしました。今回胸元や腿の部分は木や枝で隠れてしまっているので、画面に対して面積の広い衣装部分、袖に長めのフリルや大きめの蝶の羽根要素も加えて、しっかりとアレンジ要素が目立つようにしています。