戯画を楽しむ
第8回

作者未詳の元祖擬人画「鳥獣人物戯画巻絵」

人物や事象をおもしろおかしく、比喩的に誇張した絵を「戯画」(ぎが)と呼びます。日本において、特に中近世に描かれた戯画には、人間や動物、妖怪や幽霊も入り混じった、ユーモラスで賑やかな、楽しい内容の作品がみられます。擬人化、滑稽化の手法をもって描かれる世界観はしばしば風刺の性格も帯びて、現在の漫画表現に通じる工夫もみられ、深く知るほどに興味をかきたてられる世界です。

文学博士で美学者の谷川渥さんが監修をつとめた「戯画を楽しむ」では、江戸時代から明治にかけて人気を集めた浮世絵師たちによる滑稽画や諷刺画を多数収録。戯画に描かれるモチーフや代表的な作品の解説を通して、その画が描かれた時代背景や物語の表現手法、作品そのもののおもしろさを楽しく理解できる一冊となっています。

本記事では第3章「絵巻物に見る戯画のはじまり」より、「鳥獣人物戯画巻絵」について解説します。

>この連載の他の記事はこちら
>前回の記事はこちら

戯画を楽しむ

鳥獣人物戯画巻絵

日本のカリカチュアの元祖

日本の戯画史上最高の作品である「鳥獣人物戯画」は、擬人化された猿や兎、蛙などが人まねをして遊び興じる姿が描かれている。絵巻にあらわれる動物の、おもに蛙は当時の僧侶をあらわし、兎は貴族を表現している。

平安時代末期から鎌倉時代初期(12世紀中頃~13世紀中頃)の制作とされ、筆者は鳥羽僧正覚猷(とばそうじょうかくゆう)と伝称されるが確証はなく、また甲乙丙丁の4巻はそれぞれ制作時期と筆を異にしている。甲巻は一般に「鳥獣戯画」といわれるもので、猿、兎、蛙などが遊ぶ姿が描かれ、乙巻は馬、牛、鶏、獅子、水犀(みずさい)、象や麒麟(きりん)、龍などの空想の動物の生態が捉えられている。丙巻は僧侶や俗人が勝負ごとに興じ、丁巻にはやはり俗僧の遊ぶようすが描かれている。

「鳥獣人物戯画巻絵」 高山寺所蔵

猿が何か悪いことをして一目散に逃げているのを、うさぎと蛙が追いかける。

「鳥獣戯画絵巻」河鍋暁斎・模写(河鍋暁斎粉本より)国立国会図書館蔵

扇とびんざさら(編木・拍板)を持って田楽に興じる蛙と見物人。

戯画を楽しむ

関連記事