美空ひばりを実在感たっぷりに描くための映像的な仕掛けの数々
昭和の国民的スター・美空ひばりの没後30年にあたる今年、NHKはAI技術を用いて彼女の歌声、姿形を再現する試みに挑んだ。その一部始終を追いかけた番組「AIでよみがえる美空ひばり」は、NHK総合で9月29日に放送され、大反響を巻き起こした。
番組のハイライトは、スタジオにファンや関係者を招いて開かれたAI美空ひばりコンサート。生前と変わらぬ歌声、姿形で現れた彼女を目にして、多くの観客が涙した。この感動のシーンはどのように作られたのか、番組の映像デザインを担当した森内大輔氏に話を聞いた。
「AIは人間を感動させることができるのか、というのが番組のテーマです。ずっと会いたかった美空ひばりさんが自分の目の前にいる! と、ファンの人たちが感じる瞬間を描くことで、視聴者にも番組のテーマが伝わるはずです。そのため、映像技術、照明、美術などを総動員して、本物と同等のステージショーを作り上げました」。
AI美空ひばりを、等身大でステージに出現させるための技術が、4K・3Dホログラム映像だ。3DCGで再現された映像を4Kプロジェクターを使って、ホロゴースという紗幕スクリーンに投影したという。
また、セットの照明の明るさや色は事前に作り込んであって、それをCGに反映することで、あたかもリアルタイムで照明が当たっているかのように見せかけている。セットの手前と奥には電飾が配置してあり、それによって、真ん中のスクリーンに映る映像にも奥行きが感じられる工夫もなされている。
AIで再現された美空ひばりの歌声がスタジオの観客を感動させたのは間違いないが、こういった映像的、視覚的な仕掛けが、より一層深い感動を生み出したのも事実だろう。