2018年11月に東京・渋谷のギャラリー・ルデコで開催していた写真展「MG10×福島裕二」は、写真家の福島裕二さんと、ストロボメーカー、ニッシンデジタルのコラボレーション企画です。
グリップタイプのストロボとして8月に発売した”マシンガンストロボ”「MG10」を使って福島さんが撮影したポートレートを展示。会期中には一部の展示作品を入れ替えたほか、ライブシューティングやトークショーなどのイベントも併催していました。
PICTURES編集部では今回、展示作品を撮影した福島さんに作品製作時のエピソードやMG10の使い勝手などをお聞きしました。
――今回、作品撮りにMG10を使ってみて、どのあたりに良さがあると感じましたか。
まず、グリップにレリーズがついているというのが良いですね。僕自身、カメラから離れて光源の場所からレリーズを切るということは以前からやっていたのですが、それはシャッターに手の届く範囲でないと難しかった。MG10ではその撮影方法が標準でサポートされているという点に価値があります。
例えば光の具合を見て光源の位置や向き、光の強さを微調整したいときにも、これまでアシスタントに指示していた部分が、自分ですばやくコントロールできるようになる。自分で制御できる範囲が拡がるということは、単純に撮影の精度が上がるというだけでなく、アシスタントに指示を出す時間的なロスが減ることにもつながります。
僕は仕事のやり方として、できるだけテンポよく撮りたいと思っていて、それは言い換えれば、機材の都合でペースを乱されたくないということです。
時には自分やスタッフの服をレフ代わりにして色を足すこともありますし、自分がちょっと脱いで肌に光を反射させることもあります。いわば「人間レフ」というか(笑)。そのくらい気持ちが前に出ていると、先に話した通り、カメラから離れて撮ったりとか、特殊な機材の使い方になってくるんです。これまでは、そういった使い方のできる機材があまりなかった。
――特殊な使い方とは、例えばどういったものでしょうか。
先ほど申し上げた「カメラから離れて光源の位置から撮る」というのもその一つですが、モデリングランプを光源として使ったり、ズーム用のフレネルレンズを手で動かして光らせたりしています。単体で色んな光が作れるうえに、コンパクトなので様々な当て方を試すこともできる。僕が撮りたいと思っている撮り方についてきてくれる。これってすごいことだと思うんですよ。
――「ズームを手で動かす」とはどういった操作で、それによってどんな効果が期待できるのですか?
MG10の外部ズームは仕様上200mmまで電動で伸ばせるのですが、これを手で一番手前まで引き出して、固定してしまうんです。これが個人的に「最高」なポイントです。
どういうことかというと、こうすると「光が上下に割れる」んですね。MG10はグリップ型ということもあり、光源位置の調整も容易なので、割れた光はアクセサリーなしで、硬く強いスポット光として使えるんです。そして「割れた光の間」の光もすごく柔らかいので、この部分も使えます。
――それは本来の使い方とは異なる活用方法ですよね。
もちろん普通に使ってもいい光は出してくれるのですが、さすがにこの使い方は想定外だと思います。「どのズーム域でも発光面が均等に光る」ことがメーカーさんの設計意図のはずですが、これをあえて外した使い方をすることで、別の表現ができる。
一つの光源が二つに割れることのメリットは、先に述べたスポット光としての使い方のほかに、写真の上では複数光源があるように見せられること、そして当てる位置を調整すれば、光を硬くも柔らかくもできることです。それがライティングアクセサリーを使うことなく、単体でできることが僕にとって重要なのです。
――ご自身の使い方に合わせて、機材の使い方を工夫しているということですね。
そうです。工夫して使うことで、自然光のように演出して写すこともできるし、もし光が硬すぎたら、いくらでも柔らかくできますから。個人的な嗜好としてシンプルなのが好きなので、ほかのクリップオンストロボよりも好んで使っています。
――MG10は連写性能も特徴の一つですが、普通に使ってみての所感もお聞きしたいです。
「MG」シリーズのストロボに求めるのは、軽快さと連写耐性です。カメラの連写にきちんと追従して発光できるかどうか。連写性能は、旧モデルの「MG8000」譲りで満足しています。仕事で使う上では、「いいな」と思った瞬間にシャッターがおりないのでは文字通りお話にならないので、基本的な話ですが、この点はきわめて重要な要素です。
スペックとして「速い」分にはゆっくり使うことができますが、逆は無理ですよね。「大は小を兼ねる」ではないですが、スペックに余裕があれば、使えるシーンの間口も広がります。プロカメラマンの視点として、そういうところは大事にしています。
それに僕がカメラマンとして働き始めたころのストロボって、グリップ型も多かったんです。だから軽快さという観点で違和感はないし、当時よりもサイズが小さいので、使いやすさはむしろ上がっていますよ。
――MG10の写真展を開催した経緯についてお聞かせください。
9月ごろに、雑誌の企画で製品版のMG10を試用する機会があったのですが、その時の撮影がとても楽しくて。急遽MG10を使った作品撮りの機会をセッティングして、ニッシンジャパンさんと写真展を共催する運びになりました。
「MG10を使った撮影が楽しかったから」。今回の展示に関して、僕はそういう意識でないと展示はできないと思いました。
極端な話、MG10の光は、別の方法でも再現できるわけです。自然光っぽく見せる光も、本物の自然光を使えばいい。でもそれだと、展示した写真と同じようにはきっと撮れない。
――展示作品を選んだ基準は、どのようなものなのでしょうか。
それが「震える」写真かどうか、ですね。展示作品の中には、Tシャツを着て、メイクもしないまま写ってるモデルさんもいます。それってモデルとしては、いわば「武器を持たない」状態なわけですが、逆に「武器を持たない」ことがこんなに強いのか、と感じさせる側面もあったのです。
ちょっと話は離れますが、僕はニッシンさんのお仕事をするときは、モデル指定をしないんですよ。ユーザー数でいえばアマチュアの方がはるかに多いと思うので、できるだけシンプルに、アマチュアに近い条件で撮影することで、同じ機材を使って、どこまで対応できるかを見せたいと思っています。そこがプロの腕の見せどころだと思うんです。写真を観る人には少なくとも、「なじみのモデルを使ってるからこんなに上手く撮れてるんだ」という先入観は持ってほしくなかった。展示作品にも、初めて撮影するモデルさんが何人もいました。
――最後に、福島さんから見たMG10という機材の位置づけを教えてください。
一言でいえば、MG10は「楽しいストロボ」です。メーカーからしたらイレギュラーな使い方かもしれませんが、単体でいろんな光を作れるって楽しいじゃないですか。もちろん普通に使っても質のいい光は出るのですが、MG10を手に入れた方に言いたいのは、まずは色んな光を作る楽しさを知ってほしいということ。「十徳ナイフの缶切りしか使わない」みたいな使い方はもったいないです。
最後にちょっと宣伝しますけど(笑)、もし実際にMG10を使ってみて、ピンと来なかった人は、ぜひ僕のセミナーに来てほしいです。WebサイトやSNSには「すごい写真」がたくさんありますが、特定の何かをゴールにしてしまったら、作品づくりはそこで止まってしまう。ほとんどの撮影環境には、光の条件だったり、機材の制約だったり、何かしらの制限があるものです。でもそうした制約の中で試行錯誤して、ついにそこから解き放たれた時、驚くほど色んな表現ができるんです。その観点で、MG10は高いポテンシャルを持っている。そのことをぜひみんなに知ってほしいと思っています。
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