「西洋甲冑&武具 作画資料」(渡辺信吾・著)では、中近世から近代の戦争に用いられた甲冑をはじめ、武器や馬具の構造や名称、装備が用いられた時代背景や、それに伴う装備の変遷までを詳しく解説。ファンタジーイラストレーションに落とし込む際のコツも紹介しています。
槍斧や銃といった新しい武器の運用が始まり、戦場においては傭兵が台頭することで騎士の衰退が始まった15世紀の西洋甲冑は「プレートアーマー」というくくりの中で、徐々に形を変えていきます。
本記事では同書より、15世紀に用いられた甲冑4種と、同時代の甲冑をモチーフにしたファンタジーイラストの描き方のコツをご紹介します。
15世紀前半の甲冑1:プレートアーマー(板金鎧)の誕生
14世紀後半から板金の使用はますます盛んになり、15世紀に全身が鉄板でできたプレートアーマーが誕生しました。図は15世紀初めの、初期のプレートアーマーです。甲冑の防御力が向上したため、戦場では盾を携帯することはなくなりました。
15世紀前半の甲冑2:カステンブルスト[Kastenbrust]
15世紀始めにドイツで生まれた最初期のプレートアーマー(板金鎧)が、カステンブルストです。ドイツ語で「箱型の胴」を意味するこの甲冑は、その名の通り胴が非常に角張っているのが特徴。この形式の鎧は15世紀後半にゴシック式甲冑へと発展していくことになります。
15世紀前半の甲冑3:ミラノ式甲冑
15世紀半ばにイタリアのミラノで生まれたミラノ式甲冑はヨーロッパ中に輸出され、西洋甲冑の主要な様式となりました。胴の左側が蝶番(ちょうつがい)でつながった15世紀初期の形を踏襲しつつ、各部は非常に洗練され、美しく、かつ機能的になっています。
15世紀後半の甲冑:ゴシック式甲冑
15世紀、ミラノ式甲冑とヨーロッパの甲冑を二分したのが、ドイツで誕生したゴシック式甲冑です。基本構造はミラノ式甲冑と似ていますが、見た目の印象は大きく異なります。ゴシック式甲冑の表面には、波型模様や、花を模した装飾が施され、非常に華美で仰々しいのが特徴です。
防御力と攻撃力
武器と防具は常に抜きつ抜かれつ発展してきた。強力な武器が頑丈な防具の出現を促し、それがより強力な武器の開発に繋がったのである。まず14世紀、弓矢とハルバード(槍斧)の前に従来のチェーンメイル(鎖鎧)は役に立たなくなってしまう。それが14~15世紀にかけてのプレートアーマー(板金鎧)発達の大きな理由となった。しかし15世紀になると今度は火器が出現し、容易に板金を貫いてしまった。火器が発達するに従い、分厚く、湾曲した形状の胸甲が生まれるのだが、これは重量があるため、甲冑は次第に頭部と胸を覆うだけになっていくのである。
弓矢、ハルバード(槍斧)の出現
チェーンメイルでは対応しきれない
板金甲冑の出現
板金の使用で防御力は格段に向上
火器の出現
銃の前にはまだ板金でも心許ない
胸甲の出現
厚く、湾曲した形状の板金で弾をそらす
ファンタジーイラスト・描き方のコツ
ミラノ式甲冑のポイント
形状の丸みで強度を持たせているので、ゴシック式甲冑に比べてツルッとした印象です。関節のパーツはじゃばら状になっていて、曲げているときと伸ばしているときでは見え方が変化します。複雑化した各パーツの形状を正しく把握することが、甲冑を描く上で大切です。
甲冑の性能が高まり、盾を持つ必要が無くなりました。
ミラノ式甲冑(騎乗)
実際、馬上で振り回せる武器の重量には限度があります
ゴシック式甲冑のポイント
ミラノ式甲冑に比べて全体的に鋭利で丸みが少ない印象。強度のために随所に打ち出された筋や、花形の装飾を加えることで、ゴシックらしさを出すことができます。関節などの基本的な構造はミラノ式甲冑とよく似ています。
面ぽおの開け閉めを描くときは正中線を意識して、開閉時のパーツの見え方の変化をイメージしましょう。
立体の捉え方:クーター(ひじ当)
あまりに複雑な形状は部分ごとに整理して考えるとイメージをつかみやすくなります。内側の凹面パーツと、外側の凸面パーツで分けて考えました。
色々な角度からスケッチしてみるのも大切です。後から役に立つものです。
パーツの一部を外したりすることで華奢な女性らしさを演出できます。防御力は下がりますが、身軽な印象になりました。サバトン(鉄靴)の鋭利なデザインは当時の流行ファッション。
本書のこのチャプターではこのほか、より詳細な描き方のコツや、甲冑の着用方法も紹介しています。
※このページのイラストは実際の甲冑を元に、ファンタジーイラストとしてアレンジを加えたものであり、歴史上使用されていた甲冑とは異なる表現が含まれます。
<玄光社の本>