イラストレーションはもちろん、写真や映像など視覚に訴えかける媒体においては、登場人物の感情や作品世界の表現に、しばしば「モノクローム」が採用されます。
モノクロの画面は一般的に、カラー画面よりも色彩の情報が少ない分、主題の「明暗」や「形」に意識が向きやすいと言われています。モノクロのイラストレーション、とりわけキャラクターの表現においては、線の使い分けやラインの引き方、質感の表現方法、影の付け方、塗り方を工夫することによって、モノクロならではの独特な雰囲気を演出することも可能であり、それはモノクロイラストが持つ魅力の一つでもあります。
「モノクロイラストテクニック」は、モノクロでキャラクターを作画する際のテクニックを紹介する指南書です。イラストレーター・jacoさんによる詳細なテクニック解説をはじめ、カラーイラストにはない表現手法、イラストのクオリティチェックを行うために見るべきポイントなども紹介するほか、jacoさんが得意とする「角娘」(角の生えた少女)のモノクロイラスト集としても楽しめる一冊にまとまっています。
本記事では、第6章「水墨画テイストのイラスト」より、実際に水墨画テイストで作画する際の留意点をはじめ、線や質感を表現するコツについての記述を抜粋して紹介します。
いつものモチーフを水墨画タッチに
これまで線画で描いてきたモチーフを、水墨画テイストに置き換え作画してみました。要所要所の墨が目を惹く効果を生んでいますが、墨で画面がベッタリとしないように注意が必要でした。さらに中間色とにじみが、絵の雰囲気に合い深みを感じさせています。体の輪郭線のどこに強弱のポイントを持っていくべきか計算できれば、水墨画テイストでも十分に表現できることが分かります。
偶然生まれた線を楽しんで作画する。
- 顔の作画は勢いより丁寧さを優先しました。
- ぼかしが奥行きの表現に効果的に使われています。
- 足の線に下描きはありましたが、一息で一気に描いています。
- 服のディテールは雰囲気重視の荒々しいタッチにしました。
この輪郭線はクセのある線になりましたが、あえて採用しました。偶然生まれた線を使うのも、水墨画テイストの作画では楽しみの一つです。
下は水墨画テイストで男性キャラを描いてみた例です。強弱のはっきりした線や、かすれた線、荒々しいタッチがスーツ姿との相性も良く、男性らしさを引き立てる要素となっています。女性キャラでは顔の表情を水墨画テイストで描くことが困難でしたが、男性キャラでは逆に味のある雰囲気が醸し出され、むしろ効果的なようです。
- 険しい表情の表現には、筆のタッチが合っています。
- 筆のタッチと折り目のあるスーツとの相性も良いです。
足元のシワ部分は、線の強弱を極端にして表現します。
<玄光社の本>