赤城耕一の写真家に会いたい

写真家対談:笠井爾示 × 赤城耕一 (後編)「3日前に良かった写真が、3日後に見ると全然良くなかったりします」

笠井爾示さん

写真家・笠井爾示さんが手掛けた作品集「東京の恋人」および「トーキョーダイアリー」は、東京で過ごす日常の中で目にした風景と、艶のある女性ポートレートで構成される、生々しい作品世界の空気感が特徴の一つ。300頁を超える圧倒的な収録作品数も注目を集めました。

笠井爾示さんが7月31日に上梓した写真集「BUTTER」では、女優の階戸瑠李さんを約2年にわたって撮影した150点以上の作品を収録しています。

赤城耕一さんの写真家対談、第2回となる今回は、笠井爾示さんをお呼びして、笠井さんが写真家として活動するまでのルーツや、作品を作る際の考え方、使用機材にいたるまで、様々なお話をお聞きしました。

※記事末尾に、笠井爾示さんの写真展「トーキョーダイアリー」大阪展の情報を追記しました。

階戸瑠李写真集 BUTTER

仕事じゃないから「作品」が撮れる

赤城:笠井さんの作品集にはどれも女性の被写体が多く写っています。被写体に対しての感覚はどこから芽生えてきたのでしょうか。

笠井:もともと、エロチックなものには関心があったのですが、「ただのエロで終わっていない」のが写真として面白いなと思っていました。荒木経惟さんやナン・ゴールディンさんもそうですよね。そういう関心があって、いま女の子を撮っています。

赤城:女の子を撮るにしても、例えば見た者を欲情させるための撮り方もあるし、いろんなパターンがありますよね。被写体となる女性に対して、どういうスタンスをとっているんでしょうか。

笠井:難しい話ですが、僕の場合は相手が変わると全然変わります。でも、なるべく被写体となる相手に対して誠実でいようとは思っています。

赤城:アマチュアの方々の間では、いわゆるグラビアアイドルっぽい写真を撮りたい人が多いみたいで、私にもそういう撮り方講座みたいのをやってほしい、なんて依頼が来るんですよ。それと笠井さんのスタンスは全然違うわけだけど、写真集を見ているアマチュアの方には、どのように説明されるんですか?

笠井:確かにアマチュアへの指導、という話はよく出ますよね。でも、僕としては人様に言えることって特になくて、自由に撮ればいいんじゃないかと思っています。

赤城:笠井さんの写真集では、女性ポートレートと風景が等価のような見せ方になっています。個人的にはそこからある種の「凄み」を強く感じました。僕はああいう感覚では撮れないし、見たらみんなが納得するような、有無を言わせない感じがある。しかも「仕事」でもこれができるというのがすごい。

笠井:プライベートでは「BUTTER」や「東京の恋人」に収録したような写真を作品にしていますが、仕事としてグラビア写真もやるし、雑誌の仕事や広告の仕事もやります。でもそれらはあくまでも「仕事」であって、それに対して作家性を出そうという気持ちはあまりないです。

逆に「『東京の恋人』っぽく、生っぽいかんじでやってください」と頼まれても、できないんですよ。あの表現は、仕事じゃないから成立するんです。だってタレントさんを呼んだらヘアメイクさんやスタイリストさんも来るし、場所も決まってるわけでしょ。その時点で僕が撮っても同じものにはならないんです。

作品撮りは2時間で約1000ショット

赤城:「東京の恋人」に出てくる女の子たちは、どの方もすごくリラックスしているというか、ある意味、幸福そうに見えるんですよ。それは撮影現場での笠井さんの撮り方や、立ち居振る舞い、そのひとつひとつが影響していると思うんです。例えば話術とか。

笠井:どうなんですかね。僕はそれほど話術は得意ではないですよ。それに僕はなぜか、初めて会う人には怖がられやすいんです。撮ってほしい、と連絡をいただいた方でも、最初はびくびくしながら来たりして。僕は人見知りなので、初めて会う人と話すのって結構苦痛だったりします。

赤城:でも、カメラがあると平気になっていくとか。

笠井:それはありますね。それに大抵は、撮ったらすぐ解散しちゃいますよ。

赤城:そうなんですか?飲みに行ったりしないんですね。

笠井:全くしないです。ああ、でも撮ったのが友達だったら、ご飯くらい食べるかもしれないですが。

赤城:この間、女の子を撮る仕事があって、そこで笠井さんの写真を見た女の子から「私もこんな風に写真家に見つめられたい」なんて言われて、くやしい思いをしたんですけど(笑)、今日はその秘密をお聞きできればいいなと思って来ました。

赤城耕一さん

笠井:いや、秘密なんてないんですけどね(笑)。変な言い方ですけど「落とし方」っていうのは僕もわからないです。

赤城:でも「エロス」に対する関心は高いわけじゃないですか。その辺のせめぎ合いみたいなものはないんですか?

笠井:ないですね。撮影のときは、僕の方から「こういう格好をしてきてくれ」とかは一切言わないんですよ。僕に撮ってほしい、とお声がけいただく女の子は、じゃあ撮りましょうとなったとき、当日の服装について訊いてくるんですが、僕は「自由に撮られたい服で来たらいいですよ」と答えるようにしています。

赤城:撮影場所についてはどうですか?

笠井:僕の場合はラブホテルを使うことが多いです。それにはいくつか理由があるんですが、一つは経済的な理由で、もう一つは、スタジオよりもリアリティが出しやすいことです。そして時間制限があるのもいい。無期限で撮れてしまうと間延びしてしまいますから。今のところ、撮影場所としてラブホテルを使うのを断られたことはないし、服装を見ると、こちらとしてもどのくらいまで撮らせてもらえるのか、ある程度測ることができるんですよ。

こっちが「こういう服を持ってきてほしい」と言ってしまうと、最初から答えを作ってしまっているようなもの。答え合わせはしたくないんです。

赤城:意外性を楽しみたい、みたいなことですかね。

笠井:そうですね。でももうちょっと乙女チックなことを言えば、デートのときに相手がどんな服で来るんだろう?って思うのに近いです。

(c) 笠井爾示 「BUTTER」より

赤城:撮影現場に入ったら、何かしら声をかけるんですか?

笠井:何も言わずに撮り始めますね。ときには自然光で撮りたいから、カーテンとかを外したりしています。

赤城:私もラブホで撮影したことがあるんですが、自然光を入れようと思えば意外と入るもんなんですよね。

笠井:地方のラブホテルは結構入りますね。逆に渋谷とかだとなかなか入らなくて。失敗することの方が多いです。

赤城:時間制限が必要、と仰っていましたが、何時間くらいのコースで入るんですか?

笠井:曜日とか時間帯、ホテルによってもまちまちですが、概ね2時間くらいですね。

赤城:2時間で何ショットくらい撮ります?

笠井:64GBのSDカード1枚分くらい。1000ショットくらいでしょうか。数えてないからちょっと自信ないですけど。

赤城:結構撮りますね。私は1000枚も撮らないな……。

笠井:でもこの枚数も、デジタルになってからですよ。フィルムのときは10本くらいだったと思います。

赤城:だいたい3倍くらいになってるってことですね。

「写真撮影」は非日常の行為

笠井:僕は毎日、日課というか、ほぼ毎日必ず撮ってるものがあるんです。まず、自分の家から外の風景を撮る。近所の目黒川を撮る。少なくとも、1枚も写真を撮らない日はないです。別のところに住んでいたときは、その家の窓を撮ったりとか、駅から家までの道を撮るとか。ある種の儀式みたいなものです。

とにかく自分の中で「撮れたな」と思えるようなものを撮るんです。それは女の子じゃなくてもいいし、なんでもよくて。最終的に「今日は撮れたな」って思えればいい。その延長線上に女の子もいる感じです。

赤城:笠井さんにとっては日常の一つだけれども、初めて会う人もたくさんいて、それは非日常のような気もしますけど。

笠井:写真の撮影行為って、そもそも非日常的なものだと思うんですよ。写真がなければこんなにラブホテルなんて行かないですし……。それは別に人物だけではなくて、スナップを撮っていてもそう思います。

赤城:肉眼で見ることと、カメラで写真に収めることとでは、意味合いが違うと。

笠井:違いますね。それを「非日常である」という風には見せたくないけれども、「写真撮影」って、行為としてはやっぱり非日常的ですよ。女の子とサシで撮るなんてのもすごく非日常的です。それは面白いところではありますよね。そうしてるうちに女の子も風景も同じように見えるっていうのはまさしくそうで。

僕は「撮っては選ぶ」をずっと毎日続けているんです。だから写真集を作るときも、写真集のためにはじめから選ぶのではなく、事前にある程度選ばれているんです。

赤城:それは耳の痛い話で、この話はアマチュアの人にも役立つ話だと思います。とかく撮ることにばかり夢中になりがちなんですが、どこで自分の中に収めるかを考えると、撮った写真を選ぶことはすごく重要なことです。

赤城:笠井さんの場合は、膨大な数の写真を撮っていて、そこで自分を納得させているというか、収め方をされている。そういえば荒木経惟さんも、家から豪徳寺まで歩く間に一本撮ったなんて話を読みましたけど、みんなそういうものなんですね。

笠井:僕はそういう人たちの作ったものに影響されて写真をやっていますし、それも納得かなと思いました。

赤城:撮った後、後処理はどうされているんですか?

笠井:僕はすごく簡単ですよ。現像はカメラに付属しているRAW現像ソフトでJPEGに現像してから、フィルムエミュレーションソフトの「Exposure」にかけて終わりです。周辺減光とかのエフェクトもかけていません。

赤城:ポジで撮るように撮っているんですね。

笠井:そうです。ホワイトバランスは「太陽光」ですね。

赤城:ああ、じゃあ地下鉄の駅が緑色なのはそういうわけだったんですね。

笠井:それはポジの影響ですね。なるべく何もしないっていう(笑)。みんなはPhotoshopとかを使うみたいなんですが、僕は使ったことないです。

赤城:先程、ラブホでも自然光を入れるという話をされていましたが、その一方で、ストロボを当ててる写真もありますよね。その辺の撮り方って、テクニック的にどう使い分けているのか気になりました。それは例えば被写体の表層を引き剥がすためとか、自分の見たいものを見るためとか。そういう意図があるのかなと思いました。

笠井:結論だけをいえば「暗いからストロボを使っているだけ」なんですが、でも、僕は自分ではみんなが思ってるよりも光に敏感だと思っていて、光をうまく写真に取り込んでやろうという気持ちはすごくあるんです。けれども、明らかに「光を巧みに使ってるぜ」みたいな写真が好きになれなくて(笑)。そう見られるのがいやだったので、そのあたりは自分でもうまく制御してるつもりです。

曇ってるときは曇ってるなりに、光が回ってるからいいやってなるし、暗くなったらストロボを使ったらいいじゃん、という。感覚的にそういう感じです。

プリントにはレーザープリンターを愛用

赤城:プリントはどのようにされていますか?

笠井:プリントは、こだわってる部分が結構ありますね。カラーコピーみたいなものが好きなので、アトリエではキヤノンのレーザープリンターをリースしています。型番は忘れましたが買ったら450万円くらいするんじゃないかな……。

レーザープリンターって精度があまり良くないのですが、その代わり、どんな紙にも結構きれいに出力できるんです。要は「印刷」っぽいものが好きなんですよ。

インクジェットはあまり好きではないので基本的に使わないのですが、写真展の展示用としては使っています。インクジェットでプリントする方は、「自分のプリント」に近づけようとすると思うんですが、僕としては、色とかトーンがどんどん変わってほしいんですよ。

赤城:ということは、プリントを出力したときに、自分のイメージと違ったものが出てきてほしいって感じですか?

笠井:はい。「こう変わるんだ!」でオッケーという。でも、ポジをやってるとそうじゃないですか?

赤城:確かにそうですね。

笠井:レーザープリンターってプリントが速いんですよ。ボタンを押したらすぐ出てくる。そのへんの普通紙でも作れるので、僕は日常的に、誰にも見せないけど、ZINEを作って自分で見て、ひとりで「いいね!」なんて言ってる(笑)。そのうちホコリを被ったら捨てますけど。

赤城:紙で見ないと納得できない?

笠井:どうしても「これは紙で見たいよな」ってなるんですよ。最近はPCの画面に慣れてしまったので、そうでもないこともあるんですが、やっぱり見たいときにボタンを押せばすぐ出てくるっていうのが良い。これがインクジェットだとプリントで結構待たされたりするので、そういうのがないレーザープリンターは大好きです。

「3日前に良かったものが、3日後に見ると全然良くなかったりします」

赤城:写真集を作るときは編集者やデザイナーと打ち合わせをすると思うんですが、その時もレーザープリンターで出力した写真を持っていくんですか?

笠井:大量に持っていきますね。

赤城:収録する作品は、どういう風に選択されるんでしょう。

笠井:ある程度までは僕が選んで、そこから先はデザイナーさんにお任せ、というパターンが多いです。

僕が以前撮影で関わっていた新潮社の「月刊シリーズ」でご一緒して以来、付き合いのあるデザイナーさんで瀬崎幹太さんという方がいらっしゃるんですが、最近の僕のアートディレクションはほとんど瀬崎さんにだけお願いしています。というのも、瀬崎さんは僕が「半分は真剣、半分はいい加減」っていうのを知っているから、やりやすいんですよ。

もちろん、僕がほとんど選ぶときもあるし、僕と編集者とデザイナーの3人で同じくらいの割合で選ぶこともあります。でもずっと一緒に作っていると、何も言わなくても、気持ちが一緒になるというか。ここまでくると言葉じゃないんですよね。

赤城:細かい話なんですが、そのように写真を選ぶときって、どのくらいのプリントサイズで作業するんですか?

笠井:レーザープリンターではB5で出してますね。瀬崎さんの事務所にもそのプリントが山積みになっていたので、ある時、お酒を飲みながら2人で延々とシュレッダーにかけるってこともやりました(笑)。

赤城:シュレッダーにかけてる途中で、良い写真を発見したりとかは。

笠井:ありましたね。「なんでこれ(写真集に)入ってないんだろ?」みたいな(笑)。今選んだら、だいぶ違う選び方になると思います。でもそれは写真の面白いところだとも感じていますよ。

(c) 笠井爾示 「東京の恋人」より

赤城:見るタイミングを変えると、良いと思うものも変わりますよね。10年後に見たら全然違う見え方をする。

笠井:特に僕は結構あっという間に変わりますね。3日前に良かったものが、3日後に見ると全然良くなかったりします。だから写真集は、制作時の「その時」の感性で作った記録なんです。

赤城:でも写真を選ぶことって、撮影するのにも似て、結構な労力を使うものだから、これだけの数から選ぶっていうのは、やっぱり大変だなって思いますよ。

笠井:それはよく言われるんですが、僕は「これが正解である」という風にやってないので、選ぶときも「このくらいでいいんじゃない?」くらいです。でも見る人にはこれが何万枚から選びぬかれた正解だと思って見ちゃうだろうから、大変だと思うんでしょうけど。

――先程、人に見せずにZINEにして楽しむと仰っていましたが、笠井さんの中では、人に見せる写真と、人に見せない写真の間に区別はあるのでしょうか?

笠井:ないですね。まとめたものに関しては写真集にするという前提があったので、前からのセレクトを引っ張り出してきた感じです。

赤城:カラーとモノクロにもあまり頓着していないとお聞きしましたが、写真のフォーマットについてはどうでしょうか。

笠井:まったく興味ないですね。知識としてもあまりよくわかってないんですが、センサーとかフルサイズとか、まったくわかってないです。だから僕が今使っているカメラのセンサーがどのフォーマットサイズなのかも知らないですしね。その手の話をたまに聞かれるんですが、「わからない」と答えると意外そうな顔をされることがよくあります。

赤城:でもナンさんはライカを使っているし、その影響は受けてはいないんですか?

笠井:ないです。ナンさんはライカを使っているけど、それって要はコンパクトカメラですよね。一眼レフを使うようなスタイルではない。彼女はライカも使っていましたが、並行してコニカのヘキサーとかも使っていました。

――カメラの話が出たところで、笠井さんがお使いのカメラを見せていただけますか。

笠井:これです。富士フイルムの「X100T」ですね。ストロボだけライカです。実は後継機の「X100F」もあるんですが、まだ箱から出してない状態です。出すタイミングがなかったのですが、ちょうどガタがきているし、せっかくなので今日でX100Tを卒業しようかなとも思っています。もたもたしていると、また次の機種が出てしまいますよね。

対談当日(7月19日)でお役御免になった(かもしれない)富士フイルム「X100T」

赤城:かなり使い込んでいますねえ。デジタルカメラをこんなに使い込んでる人を久々に見ましたよ。新聞社のカメラマンみたい。

笠井:3年くらい使いましたね。「トーキョーダイアリー」では、風景をX100T、人物をX-T2で撮影しています。両方とも富士フイルムですね。日常的に持ち歩いて、ストリートスナップはほとんどすべてこれで撮っています。

写真家になる第一歩は「ストラップを首から掛ける」こと

赤城:笠井さんの写真って、「もしかしたら、自分でもこんな風に撮れるかも」と思わせるものがあると思うんですよね。

笠井:僕としては、そう思ってもらえるのが一番うれしいです。秘密なんてないですよ(笑)。

赤城:そう思うでしょう?でも写真を見てると、結構ナゾな部分があるように感じられるんですよ。

笠井:「これ見て写真を撮りたくなりました」って言ってもらえるのはうれしいですね。でも写真を撮るのって簡単でしょう?

赤城:そりゃ笠井さんにとっては簡単かもしれませんけど(笑)。多分、毎日撮ることって、簡単なことじゃないんですよ。

笠井:それはそうかもしれませんね。でもそれさえやればいいんですよ。僕も「笠井さんのように撮るにはどうしたらいいんですか?」と訊かれるんですが、そのとき必ず答えるようにしているのは「首からカメラをぶら下げるようにしてください」です。それさえしてれば撮れますよ、って。

よく、写真を撮るのが好きって言ってる人の中には、ストラップを斜め掛けにしてる人がいるんですが、斜め掛けだと撮りたいときに撮れないんですよ。撮る気があるなら絶対に首から掛けてほしい。

あとは、ストラップが短いのもイヤです。すぐ手に取れることが重要なんです。かといって短すぎるのもちょっとね。

赤城:手に巻いてるのはどうです?

笠井:それもなんか気合いが入りすぎてる感じがしてイヤかなあ。

赤城:(爆笑)

写真を撮るときは、首からカメラを下げておくこと。
でも短すぎるのはNGだそうです。

――ストラップもカメラ付属の純正品から替えていますね。

笠井:機種名とか書いてあってあまり好きじゃないから替えてますね。それも首から下げるための行為です。もし僕みたいに撮りたいなら、家の中でまで下げてなくてもいいけれど、少なくとも外に出てる間は、首からぶら下げててほしいなと思います。ほかの写真家の方と会ったときにも、首からカメラをぶら下げていてくれると、すごくうれしいですし。

赤城:写真家になるには、まずはカメラを首からぶら下げることなんだと。結果として、カメラの移動距離が最も少なくて、隙がなく、撮りたいときにすぐ撮れるストラップの掛け方がこれだということですね。

道具の一長一短を受け入れる

赤城:ところでX100TってEVF(電子ビューファインダー)とOVF(光学ビューファインダー)があるんですが、どちらを使ってるんですか?

笠井:EVFの方が多いですが、どちらも使いますね。あまりこだわりはないです。

赤城:このレンズフードも、純正のではないですよね。

笠井:レンズフードはおしゃれで着けてます(笑)。純正のフードって、穴が空いてて、OVFにしたとき画面にちょっと入っちゃわないですか?

赤城:あれはああいうものなんですよ。穴が開いてるのは四隅がけられないようにするだけのためですし。それにX100Tを使ってる人はだいたいEVFを使ってるので、ほとんどの人は画面に入っちゃうとか気にしてないと思いますよ。

私なんかは、そういう細かいことが気になってしまうんです。だってこれかっこよくないですか?どうしたらマネできるのかなって。このフードを着けると笠井爾示になれるわけじゃないですか。

レンズフードは、アダプタをかませてサードパーティ品を着けている。

笠井:でも、X100Tだけじゃないですが、富士フイルムのカメラって、カメラとして特別高い性能なのかというと、そういうわけではないんですよ。使ってきた経験上思うのは、時々ピントが甘かったりとか、赤っぽいものにピントが合いにくいとか。あとは人間を撮るのが苦手な印象があります。

赤城:まあカメラにはどうしてもダメなところはありますし、私なんかは「オレが開発にフィードバックして次に繋げてやるぜ!」くらいに思って使ってますけどね。

笠井:でもそれは確かにそうで、さっきのポジの話ではないですが、カメラという道具は一長一短があります。使いこなすっていうのは、それを受け入れるところから始まるのかなと思います。

僕はカメラ好きの人と話すのが大好きなんですが、そういう人って新製品が出るとそっちに飛びつくじゃないですか。でも結局良いものってマイナスな部分もあるわけだから、なら最初から無理して良い方に行かなくても、という気がしてます。

赤城:レンズ交換についてはいかがでしょう。いわゆる「お仕事」の写真では交換するかもしれませんが、「BUTTER」で撮影されてる写真でもレンズ交換式のカメラで撮影されてるんでしょうか。

笠井:まったくしないです。X100Tにはコンバージョンレンズがありますが、それも使っていませんね。もちろん仕事などで使う必要のある場合は使いますが、個人的には、あまりメカには興味がないです。あまりいろんなカメラを使うと、面倒くさくないですか?

赤城すみません。いやいや、私はこれもまた仕事ですから(笑)。

笠井:昔はフィルムが変わるだけで、カメラは一緒だったりしたじゃないですか。僕はどちらかというとその発想なんですよ。それにデジタルになって、新しいカメラを買うと、バッテリーが変わったり、充電器が増えるじゃないですか。そういうのがすごくイヤなんです。

前編はこちら

笠井爾示写真展「トーキョーダイアリー」開催概要

会場:tokyo arts gallery
住所
:東京都渋谷区東2-23-8
開催期間
:2019年9月6日(金)~9月16日(月・祝)
開場時間:12時~20時(最終日は18時まで)
休廊日:9月9日(月)
入場料:無料
関連イベント:9月7日(土)アーティスト・トーク(詳細はギャラリーの開催概要を参照)

関連記事はこちらから

「トーキョーダイアリー Inn オーサカ」開催概要

会場:The Blend Inn
住所
:大阪府大阪市此花区梅香1-24-21
開催期間
:2019年9月28日(土)~10月20日(日)
開場時間:8時~19時
入場料:大人500円、小人(小・中学校)200円、5才以下とThe Blend Inn宿泊客は入場無料。
関連イベント:9月28日(土)アーティスト・トーク (詳細は関連記事を参照)


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