人物写真を撮る際に重要なテクニックは数多ありますが、その中でも特に重要度の高い技術は「光を読む力」でしょう。頭の中にあるイメージ通りに作品を撮影するにあたり、光を読む力を鍛えることは、機材選び以上に重要な要素です。
撮影時の光源として使える最も身近な光源機材は内蔵もしくはクリップオンストロボですが、作品づくりを念頭に撮影へ臨むならば、単に直射、バウンスするばかりでなく、ときにはストロボ自体を使わない、あるいは、そこまではせずとも光源の扱いを一工夫する必要も出てくることでしょう。
「光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング」では、カメラから離れた位置にストロボを配置するライティングテクニックを中心に、オフカメラライティングの基礎知識から多灯ライティング、ストロボ撮影時の構図の考え方など、「光を読む」技術を多数紹介しています。
本記事では、Chapter2「オフカメラ・ストロボライティング8つのルール」より、ストロボの機能と性能についての解説部分を抜粋してご紹介します。
ハイスピードシンクロを知っておこう
ストロボを使うときは、「被写体の明るさはストロボで調整」「背景の明るさはシャッタースピードで調整」と考えます。
ただし、注意したいのは「シンクロスピード」です。シンクロスピードより速いシャッター速度になると、条件が変わってきます。一眼レフカメラやミラーレス一眼などに採用されているフォーカルプレーンシャッターの場合、シンクロスピードより速いと「ハイスピードシンクロ」の状態になり、ストロボがパッ、パッと何回も光るので、ストロボに負担がかかります。パワーが小さいストロボだと、チャージが間に合わなかったり、熱くなったりします。ハイスピードシンクロに対応していないカメラや、ストロボに負担をかけたくないときは、バッテリーパックを使ったりNDフィルターを使ったりします。
シンクロスピードはカメラによって違う
シンクロスピードはカメラによって違うので、自分のカメラのシンクロスピードを知っておきましょう。だいたい、1/160~1/320秒くらいの間で、多いのは1/200 ~ 1/250秒のカメラです。ハイスピードシンクロの領域になると、下のようにシャッター幕が画面に写り込んでしまうことがあるので、1/3 ~ 2/3くらい、シャッター速度に余裕を持つことが大切です。黒い部分はシャッター幕が閉じているので黒く写ります。
ちなみに、コンパクトデジタルカメラなどのレンズシャッターはすべてのシャッター速度に対応しているので、ハイスピードシンクロの問題は起こりません。
ガイドナンバーは60と80を基準にする
ガイドナンバーが大きいほどストロボのパワーがある
ストロボには、パワー(=光量)を表わす「ガイドナンバー」という数値があります。数値が大きいほど、ストロボのパワーも大きくなり、遠くまで光が届きます。光が届く距離と露出は、下のような簡単な計算式があるので、目安として覚えておくといいと思います。環境によって誤差はありますが、たとえばISO感度100、絞りF4の設定でガイドナンバーが60のストロボを使うと、15mの距離まで適正露出で撮影できる、ということがわかります。ストロボのパワーは、1/1がフル発光の最大出力で、1/16、1/32、1/64、1/128と出力が下がっていきます。
ストロボの光が届く距離(m)=ガイドナンバー(GN)÷ 絞り値(F値)
基本はガイドナンバー60があればOK!
クリップオンストロボは、ガイドナンバー60か、それ以下のものがほとんど。ガイドナンバー80相当のパワーがあるのは、ニッシンデジタル MG10やGodox AD200などです。普通のクリップオンストロボよりも少し大きくて、ホットシューはついていません。
日中に撮影するときは強いパワーが必要になりますが、最初はガイドナンバー60で試して、限界を感じたらもっとパワーのあるストロボに変えればいいと思います。ストロボを2灯、3灯くっつけて使うのもありです。
また、ストロボと被写体の距離が2倍になると、ストロボの光量は1/4になります。ストロボのパワーを稼ぎたいときは、被写体とストロボをできるだけ近づけて使います。さらに、アクセサリーやフィルターを使うとさらに光量は弱くなります。パワーを稼ぎたいときは、これらを外して直当てで使います。
自分のよく使うストロボとアクセサリーの組み合わせと、距離を知っておけば、いつでもその設定で安定した光を得られるので、基準値を作っておくといいでしょう。
ストロボのパワーを稼ぐ方法
- ストロボと被写体の距離を近づける
- アクセサリーを外して直当て
- 照射角を望遠側にする(105mm)