「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第20回のテーマは「本」。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 本を取り巻く場の「空気感」をいかに表現するかが大事。
2. 「空気感」を表すのに一役買うのが絞り開放。写真に動きを出すのが「風」。
小学校の教室の机の上に置かれた本を撮影しました。窓から入る緩やかな風が気持ちのよい日でした。その空気感を表現するため、風でページがめくれた瞬間を切り取りました。奥のカーテンも一緒に揺れているので、通り抜ける風を感じられる一枚に仕上がりました。
本をどこに置くかが一番の肝
本を撮る時、最も大切にしているのは「空気感」です。その本は一体どういう場に置いてあるのか、どういった内容のものなのか…。そういったことをできるだけ写真で伝えられるように心がけながら、シャッターを切っています。本はわりと手軽に動かすことができるので、いろいろな場所に置いてみて「ここだ!」と思う場所で撮影してみましょう。本そのものが地味なので、ドラマチックになりすぎるかな? と思うくらいの場所が実はちょうどよかったりします。
絞り開放と「風」がものをいう
「空気感」を出すために有効なのが「風」を取り入れる方法です。風に吹かれてページがふわりとめくれる瞬間を切り取ると、静かな世界の中に動きが出ます。また、本そのものの「意思」を感じさせるような写真に仕上がります。下敷きのようなもので近距離から扇ぐとページはすぐにめくれます。また、絞りを開けると、被写体以外がぼけて「空気感」が出やすくなります。わたしは本を撮る時は、普段の撮影ではあまり使わない「絞り開放」を選択することが多いです。
プレゼントしていただいたブックカバーと栞を初めて使った日の写真です。「読みかけの本」の醸し出す空気感(この先にまだまだ面白い物語が詰まっているような、ワクワクする感じ)を写したくて、あえて栞にピントを合わせ「読書の途中」という雰囲気を演出しました。本にピントを合わせると、読書の途中ではなく、本の存在感の方に目がいく写真になってしまうので…。
カフェで写真集を眺める友人を横から撮影しました。人そのものではなく「写真集を眺めている雰囲気」を出したかったので、思い切って友人の顔は写さず、首から下だけにして匿名性の高い写真に仕上げました。顔を写すとどうしてもその人の表情や雰囲気に引っ張られるので、メインで写したいところがそこでない場合は、人物の顔を写さないのもアリだと思います。
木漏れ日の中、ページがめくれていく本を撮影しました。最初(ここに本はなく)木漏れ日の入るオレンジ色の木のテーブルが美しいなと思いました。ただ、テーブルだけだと寂しいので、何か置いた方がよい気がしました。この時、文庫本を持っていることを思い出したので、それを置き、写真に撮りました。本はその場に物語性を持たせてくれる素敵な小道具です。