カラーグレーディングワークフロー&シネマカメラ
第5回

6Kの映像は「動く写真」。シネマカメラで撮る静止画

映像の色味は、作品世界の状況や登場人物の心情などを表現するうえで大きな比重を占める要素です。例えば映画などの回想シーンでセピア色になった映像や、ホラーやサスペンスで青みがかった緊迫のシーンを目にしたことはないでしょうか。映像作品におけるこれらの演出は、カラーグレーディングという工程によるものです。

カラーグレーディングワークフロー&シネマカメラ」では、動画編集ソフトを用いたカラーグレーディングのテクニックを解説。実務でカラーグレーディングを行っているプロが、撮影から編集、グレーディングの手順を説明しています。また、一部の記事ではWeb版「ビデオSALON」と連携して、説明手順を動画で紹介したり、お試し編集・調整用の素材提供なども行っており、読者の理解を助ける試みも行っています。

本記事では、映像写真家の小川浩司さんによる、フルサイズミラーレス「LUMIX S1/S1H」で撮影した6Kムービーから切り出した写真作品についてのレポート部分を抜粋して紹介します。今回はその前編。

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カラーグレーディングワークフロー&シネマカメラ

LUMIX S1/S1Hでネイチャーのスチル&ムービー

LUMIX S1やS1Hのメリットはシネマカメラでありながら本格的なフルサイズのデジタル一眼カメラでもあること。スチルとムービーの両方を手がけるネイチャーカメラマンはS1とS1H、そして V-Logをどう使ったのか。

ミラーレスのパイオニアがフルサイズでも戻ってきた

2008年に世界初のミラーレス一眼カメラ「パナソニック・ルミックスDMC-G1」を発表してから2020年で12年になる。ミラーレス一眼規格であるマイクロフォーサーズを採用し、いち早く4K記録やスロー撮影のVFR、Log収録などに対応し、「動画一眼」の世界を先頭に立って走り抜けてきたパナソニック。当時「超望遠レンズで野鳥の高画質・スローモーション動画撮影がしたい(予算内で)」という私の要望に応えてくれた唯一の選択肢であった。

時は経ち、各カメラメーカーからもフルサイズセンサーのミラーレス一眼が続々と発表される中、ライカ・シグマと同盟を組み、満を持して登場したのがPanasonic LUMIX「S」シリーズ。フルサイズミラーレス一眼の市場では後発だ。

今回、私の野鳥、風景といったネイチャーのフィールドに持ち出し、S1とS1Hでどこまで撮影できるのかに挑戦してみた。「G」シリーズで培ってきた機能をベースに、6K動画、フルフレームによる4K/60p、そしてLマウントのレンズはどんな世界を見せてくれるのか。


今回使用した機材は、カメラボディが「Panasonic LUMIX DC-S1」と「同S1H」、レンズが「Lumix S PRO 70-200mm f/2.8 O.I.S.」、テレコンバーター「DMW-TC14+DMW-TC20」。

6Kとはどんな世界なのか?

シネマクオリティと謳うLUMIX S1H。映像制作に欠かせないシネマカメラの機能を、一眼レフサイズのボディにどっしり搭載している。完全にプロフェッショナル向けだ。映像制作者向けの細かな機能は多岐にわたるため割愛するが、S1Hの目玉として6K映像が撮れるようになったことがある。私は今まで、ほとんどの動画を4KかFHDで収録している。6Kとはいったいどんなものなのか……正直、再生環境が整っていないために確認のしようがないが、4Kモニターで映像を確認した時に「写真が動いている」と感じた。

まだ4Kが普及しはじめの頃、フルHDモニターで4K動画をなんとか再生していた時の、解像度の美しさに対する感動に近い。なんたって4Kの約800万画素から、6Kの約2000万画素。これって写真の画素数だ。それが毎秒24~30コマで動くんだから、そりゃ「動く写真」と感じるはずだ。

また、S1/S1Rでは6Kは撮影できないものの 4K60pは撮影可能。動きモノを4Kスローで表現するならばSシリーズは全機種通して撮影可能だ。

6K V-Log 映像からの1コマが「写真」になる

フォトショップのCamera RAWはRAWだけでなく、JPEGやTIFFのファイルも開くことができ、RAWほどの調整範囲はないが同じパラメーターで調整することができる。左はV-Logの6Kムービーから切り出したもの。下はLUTを利用せず、Camera RAWのパラメーターで調整した状態。

V-logからの6K写真現像

映像製作者ならではの、ちょっと特殊な写真作品づくりを紹介する。以前、LUMIX GH5でLog収録した4K動画からAdobe Premiere Proを使い、カラコレしていない静止画をtiffで書き出し、そのままフォトショップのCamera Rawで現像するというプロセスを行い写真として印刷した。画像はトリミングもしており800万画素を下回っていたが結果は上々で、A2サイズの印刷になんとか耐え、野鳥のディティール感溢れる作品に仕上がった。

これを踏まえ、S1Hの6K動画から同じプロセスでtiffの静止画から写真現像を行なった。LUTは使わずそのまま現像する。もちろん RAW画像とは違うので調整できる幅は限られるが、しっかり色情報が残っているのがわかる。

結果は思った通り、そのまま写真作品として使える画像が仕上がった。動画と静止画の2つが一度に手に入るのはまさに一挙両得、6Kの高画素がもたらす恩恵である。

三脚からの開放、圧倒的な手ブレ補正

「S PRO 70-200mm f/2.8」に、「DMW-TC20(2倍テレコン )」を装着して撮影をした。撮像範囲をAPS-Cに変更すれば換算で約600mmだ。これを手持ちで構え、ファインダーを覗いた時に衝撃が走った。まず200mm付近ぐらいでは全然ブレない…! ビタッとフレームが止まっているじゃないか! 驚きを隠せなかった。テレ側で最大の換算約600mm 付近ともなるとさすがにゆるやかに動くが、動きモノなら私の中では許容範囲だ。もちろん姿勢などはコツが必要だし、若干ゆらぎが入ったりもする。しかしなかなかこの手ブレ補正は凄いぞ! 特に小鳥を撮影する場合に、藪や木の中で飛び回られると、枝など障害物がかぶってしまい、ほん1cm横や上下にずれたい場合が多々ある。ムービーの場合、超望遠の場合どうしても三脚は必須だが、三脚を横に移動→再度被写体に合わせてフレームイン→フォーカス→REC…なんてやってると、すぐさま飛び立ってしまうので撮れ高が低くなってしまう。このSシリーズではちょっと体をずらせば終わりだ。まるで写真を撮っているかのように、動画を撮ることができる。驚くほど撮れ高が向上した。

Gシリーズでも感心したが、それ以上だ。もちろん、ボディ内手ブレ補正(B.I.S.)だけでも相当効く(シャッター速度6段分)のでシネマ用マニュアルレンズ、オールドレンズなど手ブレ補正機構のないレンズも補正可能だ。この素晴らしく強力な手ブレ補正の進化は撮影の「自由」を拡げてくれる頼もしい相棒となったのだった。(続く


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