アニメーション映像における「色」は、視聴者に対して登場人物の性質や心情、場の雰囲気を伝える重要な要素の一つです。工程により分業で制作される現場においては、線画に着色する色を管理する「色彩設計」という役割があります。
物語が展開する中では、時間帯や天候、舞台となる場所、キャラクターの状態などが変化します。そうした変化を表現するには、その場に応じた色指定を行う作業が必須です。かつては作品によって他の役職と兼任だった色彩設計の仕事ですが、より複雑な表現が可能になり、膨大な色が使用できるようになった現代の制作環境においては、専任の役割として定着しています。
「アニメーションの色彩設計から学ぶ 色彩&配色テクニック」では、設定されたシチュエーションごとのキャラクター配色を例に、色指定を行う際の考え方を解説。色彩設定の実務内容の一端が学べる一冊となっています。著者は「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」や「コードギアス 反逆のルルーシュ」などの作品に色彩設計として参加している柴田亜紀子氏。
本記事ではChapter1「基礎編」より、透過しているものを表現する際の色の重ね合わせに関する表現の方法について解説します。
アニメーション特有の色表現
水の中や涙など透けた色が重なる表現のテクニックもさまざまで、色を重ねて作る場合やそれぞれのパーツの色を作って塗り分ける場合があります。用途や演出意図によって色の塗り方が変わります。
水の中の表現
水の中にいる状態を表現する際は、肌の上に水色をのせるだけではなく、水の中の色を塗り分けて、透明感が出るように表現をすることもあります。演出でどう見せたいかにもよりますが、作品傾向に左右します。(キャラクターデザイン:もくり)
塗り重ねた表現
年齢層が低い子供向けの場合はわかりやすく、青を重ねたような塗り方のほうが適しています。
塗り分けでの表現
年齢層が高めのターゲットの場合は、見ている人が自分で色を補完できるので、それぞれのパーツに少し水色を混ぜたような色にしています。
色つきガラスの表現
ヘルメットのバイザーやサングラスなど色のついた透過性のものの表現です。それぞれ部分的に同系色の違う色で塗る「塗り分け」と「撮影時の合成」の2つのパターンがあります。(キャラクターデザイン:馬越嘉彦)
塗り分けでの表現
バイザーをかけている部分を、色の塗り分けで表現しています。肌色と目や白目、眉などをそれぞれ違う緑で塗っています。仕上げ担当の負担は増えますが、それぞれのパーツの見え方を自由にコントロールできます。
撮影時の合成での表現
バイザー部分を別セルでのせ、撮影時に不透明度を調整します。同じ動画からバイザー部分を分離させるので、手間が増えてしまいます。バイザー越しの見え方や濃度のコントロールは撮影担当に任せることになります。
撮影時に透けさせて合成することを「ダブラシ」といいます。
涙の表現
作画にもよりますが、肌の色を違う色で塗り分ける方法と白い涙を塗り、透明度を変えてのせる合成の2種類の方法があります。(キャラクターデザイン:香川 久)
塗り分けでの表現
肌の上の涙を、それぞれの涙越しの色を作って仕上げで塗り分ける場合。
合成での表現
ふちどりして囲んだ部分に涙の色でペイントし、撮影で不透明度を調整しています。
涙の部分をふちどりで囲み、ハイライトなどを入れます。右は別で塗った涙のみの部分。
ギャグ系の涙
ギャグっぽいカットでは、マンガチックに表現したほうがいいので水色の不透明色で塗ります。あえて不透明色でわざとらしく表現することで、よりギャグっぽくなります。(キャラクターデザイン:馬越嘉彦)